子どもに誇れる仕事をしよう。1000万人が利用する絵本情報サイト「絵本ナビ」のシステム開発


2002年に誕生し、子育て世帯や絵本ファンから支持される絵本の口コミ情報サイト「絵本ナビ」。画期的な「全ページためしよみ」機能や絵本の定期購読サービス「絵本クラブ」など、絵本にまつわるさまざまなサービスを提供し、2017年度JEPA電子出版アワード(日本電子出版協会・主催)の大賞にも選ばれました。

ソニックガーデンは一部のサービスのリプレースを担当し、現在も継続的に開発面の支援を行っています。

絵本ナビを企画・運営する株式会社絵本ナビの企業理念は、“絵本を通して「幸せな時間」を届けたい”ということ。17年間の歴史を持つ絵本ナビの歩みとこれからについて、同社代表取締役社長・金柿秀幸さんとソニックガーデンの担当プログラマ・松村章弘と西見公宏に話を聞きました。

自身の育児体験から生まれた「絵本ナビ」

絵本ナビは、100社以上の出版社と協力し、紹介作品70,000冊を超える日本最大級の絵本情報サイトです。

サービスを立ち上げた金柿さんは、大手小売業で次々と新規事業を興していた父親に影響を受け、「いつかは起業を」と考えていました。そして娘の誕生をきっかけに「こみ上げる情熱と根拠のない自信、そして度を超した楽観主義」があふれ、勤めていたシンクタンクを退職。目先の成功ではなく、必要とされるサービスを作ろうと決意し、手がけたのが絵本ナビでした。

パパ'S絵本プロジェクトという、父親による絵本読み聞かせの活動にも参加している、株式会社絵本ナビ 代表取締役社長・金柿秀幸さん

自身の子育てや親同士の交流から感じた、「親子で絵本を楽しみたい。でも、どんな絵本がいいのか分からない」というニーズ。そして「大好きな絵本、子どもとのエピソードが詰まった絵本を紹介したい」という思い。この2つをインターネットで結びつけた絵本ナビは、母親達を中心に口コミで広がり、まるでユーザーみんなの子どものように育まれてきました。

とくに大きくユーザーを増やすきっかけとなったのは、2010年にスタートした「全ページためしよみ」のサービス。これは、1作品1回に限り絵本の試し読みができるという機能です。

金柿の顔金柿
絵本は1度読んだら終わりではなくて、気に入ったら何度も読むものです。また、買う前には読んでみて、子どもが気に入るか、怖いシーンはないかなどの確認をします。全ページためしよみはとても革新的であり、ユーザーだけでなく出版社・著者にも受け入れられました。

機能導入時のテストでは、試し読みを行った前後で販売冊数に4倍の差が出るなど、購入の後押しになることもしっかりと証明されています。31作品からスタートした全ページためしよみですが、今では対象冊数2,200作品以上。絵本ナビを代表する機能となりました。

システム開発に必要なのは、何を優先するかという意思決定

絵本ナビは、メインとなる絵本情報・口コミ提供の他に、ユーザーニーズに合わせてサービスを増やしてきました。現在、絵本や関連グッズを扱うウェブショップなど合計6つのサービスを展開しています。開発体制は、絵本ナビを自社で行い、その他のサービスは、ソニックガーデンをはじめとした外部の開発会社と進めています。

元SEとしてシステム開発に関わっていた金柿さんは、ソニックガーデンの納品のない受託開発を知り、感銘を受けたそう。

金柿の顔金柿
開発者時代、僕は従来の開発手法に絶望感を抱いていたんです。ウォーターフォール型の開発は、クライアント側も開発側も、ディレクションや予算管理にストレスをためやすい。ですから、ソニックガーデンの納品のない受託開発の話を聞き、これだ!と思いました。

また、技術は常に更新されていくものです。最新の技術を追っている会社とパートナーシップを組みたいと思っていましたから、高いレベルで理想的な開発を実現しているソニックガーデンに、ぜひとお願いしたんです。

ソニックガーデンが担当しているのは、定期購読サービス・絵本クラブと絵本ナビ・プレミアムサービスのリプレースです。リプレース案件における重要な視点は「リプレースをすることが目的ではない」ということ。今回も、リプレース後の改善にフォーカスをして開発にあたりました。

絵本ナビを担当するソニックガーデンのプログラマ・松村 章弘(左)と西見 公宏(右)

絵本クラブの課題は、まずスマホ対応の遅れ。そして、「おばあちゃんが住所の違う孫たちに絵本をプレゼントしたい」などの、複雑な申込みや配送に対応できないことでした。まずはスマホ対応を優先的に進めながら、複雑に入り組んだスパゲティ状態のシステムをシンプルにするべく、開発がスタートします。しかし開発が軌道に乗るまで、時間がかかってしまったそうです。

ソニックガーデンの納品のない受託開発は、仕様書も納品日もありません。サービスの目的を達成するための最適な機能の開発を、小さな単位で積み重ねながら進めていきます。 そのため重要となるポイントは、意思決定。機能を残すか、残さないか、どの機能を新しく開発するのか。その判断が、開発依頼側に求められます。

絵本クラブのリプレースでは、ユーザーの声を真摯に受けとめてしまうがあまり、どの機能を優先して開発するのかという判断に時間がかかってしまいました。当時、複数のプロジェクトを管理していたのは金柿さん1人。少しずつ現場でディレクションできるようにと、絵本クラブのリプレースは現場担当者に任せていましたが、初めてのことに手探り状態だったのです。

「ディレクションを任せるだけでなく、意思決定者も決めて判断まで任せる必要があったと気づきました。それは僕自身の反省です」と金柿さん。現在はプロジェクトの大小に合わせて意思決定者を分け、スムーズに判断を行い、開発が進むようになっています。

リプレースで新規入会が増加。プロダクトに適した開発方法とは?

リプレースの効果は、目に見えて表れました。 スマホ対応の結果、新規入会者が増え、売上げが1.5倍になりました。また、メディアでサービスが紹介される度に発生していたサーバーダウンが、リプレースによって解消され、ユーザーを取りこぼす心配もなくなったのです。

「実は、開発会社として独自のスタイルを持つソニックガーデンに、社内は少し不安があったようです」と明かす金柿さん。しかし絵本クラブが改善したことで、ソニックガーデンへの信頼が生まれ、両社はパートナーシップを強めていきます。

続いて着手したプレミアムサービスのリプレースでは、次のような課題がありました。

デジタルの絵本読み放題や朗読音声の配信など、デジタルコンテンツを定額で提供する絵本ナビ・プレミアムサービスは、複数のプラットフォームに提供することを想定しています。サービスを横展開することでコストをおさえ、収益を上げていくというビジネスモデルを考えていたのです。しかし提供するプラットフォームが増えるたびに、サーバーも増え、開発費もかさんでいくという状態になっていました。

金柿の顔金柿
絵本ナビは前例のないサービスで正解がありません。ユーザーの反応を見て、サービスを変えていくという試行錯誤が必要。つまり柔軟な変更がしづらい今までの開発手法は、サービスを成長させていくことに向いていなかったのです。

実は、子どもが絵本に触れる機会は少ない。「子どもと絵本のコンタクトポイントを増やしていきたい」と金柿さん

定型のサービスでシステムの要件が固定している場合なら、一気に開発、納品して完了という手法でも問題はないでしょう。しかし、ウェブサービスのようにユーザーの反応が日々変わり、成長し続けるために形を変えていくビジネスの場合、要件定義ありきのシステム開発は時間やコストのロスが大きいのです。

またリプレースの難しさは、旧システムで抱えていた顧客情報や各種データを安全に新システムへ移行すること。頻繁に行えることでもなく、どのタイミングでリプレースを行うかは重要な経営判断です。今回のリプレースは、将来の成長を見通し、よりベストなサービスを効率よく展開するための投資でなくてならないということがうかがえます。

プレミアムサービスのうち、ソニックガーデンが担当したのは学習まんが読み放題となぞなぞ読み放題のサービス。今後すべてのプレミアムサービスを一元管理し、効率的に横展開するという本来の姿になるよう、現在も開発を続けています。

ビジネスを理解した開発は、サービス運営側に安心と信頼をもたらす

これまでの取り組みを振り返り、「ソニックガーデンは、いつも期待値を超えた対応をしてくれます」と語る金柿さん。さらに、現場担当者が安心して仕事ができていることも挙げました。

金柿の顔金柿
ソニックガーデンは、開発とユーザー視点の両方からビジネスを理解し、アドバイスをしてくれます。依頼に対して、システムを作らないことが最適という提案もあるほどです。また、私たちの問題意識をくみ取ったサポートも手厚く、助かっています。

たとえば、データを使いたい時に抽出条件などを相談すると、的確にデータを出してくださいます。何が必要で、どういったことを求められるかを理解されているからですよね。信頼関係があるからこそ、納品のない受託開発はうまくいくのだと思います。

これに対し、絵本ナビのユーザーとして子どもと一緒に絵本を楽しんでいるという松村は、絵本ナビのビジネスが面白く、開発が楽しいと話します。

松村の顔松村
ビジネスの理解まで重視しているのは、ソフトウェアの品質にも関わってくるからなんです。金柿さんたちからビジネス課題も共有いただくので、僕たちも共感を持って提案ができます。

松村は数年来の絵本クラブユーザー。気づけば、子どもが絵本好きになっていたそう。

子どもと絵本を楽しみ、子どもに誇れる仕事をする

絵本ナビはウェブサービスゆえに、「子どもが絵本を読むという体験を、デジタルに置き換えようとしているのですか?」と聞かれてしまうことが多いそう。その質問に対して金柿さんは、次のように答えています。

金柿の顔金柿
絵本に関する最上の体験は、紙の本を親と一緒に読むということ。これは揺るぎません。絵本ナビは、そんな最高の体験を増やすための手段なんです。

絵本ナビは、幸せな時間を応援する生活ナビゲーションカンパニーとして確立していこうとしています。絵本・子育てを通して、幸せな時間を過ごしてもらうためのインフラでありたいと、サービスを磨き込んでいます。

「自分たちの誇りは、一緒に働く社外パートナーからも“絵本ナビの仕事を子どもに伝えるのが嬉しい”という声をいただくこと」と金柿さん。「社内のスタッフにもみんな、子どもに胸を張れる仕事しようねと言っているんですよ。ぜひソニックガーデンには、絵本ナビという事業が発展していく中での良きパートナーとしてあってほしい」と話しました。

対して松村と西見も、「絵本ナビの成長に合わせて、絵本を楽しむ人たちが増えていく。そのような未来を一緒に描ける継続的な関係でありたい」と気持ちは一緒です。これまでリプレースが中心でしたが、新しいサービスの開発にも意欲を見せています。

[取材・構成・執筆/マチコマキ]

この記事を共有する