外出を通じて高齢者のQOLを向上したい。介護スキルシェア・トラベルヘルパーのマッチングサービス「アエルズ」【前半】


お客さま事例として今回ご紹介するサービスは、株式会社アエルズが運営する外出支援専門家のトラベルヘルパーと介護やサポートが必要な高齢者・体の不自由な方をつなぐマッチングサービス「アエルズ」。そして、介護旅行・外出支援のエピソードをまとめた「トラベルヘルパーマガジン」です。

アエルズが目指すサービスは、旅行やおでかけなどを通して生活を楽しみ、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させること。アエルズ代表の篠塚登紀雄さんとソニックガーデンの担当者・藤原士朗と大野浩誠に、アエルズを作った背景、そして高齢者をユーザーとするウェブサービスの開発について話を聞きました。全2回でお届けします。

高齢者のおでかけを支援するアエルズ

株式会社アエルズが運営する「アエルズ」は、外出支援専門家のトラベルヘルパーと介護やサポートが必要な高齢者・体の不自由な方をつなぐ、マッチングウェブサービスです。

「トラベルヘルパーは、介護職員初任者研修以上の資格を持ち、介護旅行の専門教育を受けた外出支援のエキスパートです(※1)」と語るのは、株式会社アエルズの代表取締役・篠塚登紀雄さん

株式会社アエルズ 代表取締役・篠塚登紀雄さん

トラベルヘルパーは、介護旅行(介護を必要とする方の旅行)の相談や引率、近所への買い物・おでかけの送迎といった、外出に関わるすべての支援を行います。特定非営利活動法人日本トラベルヘルパー協会が認定する民間資格で、約1,100名のトラベルヘルパーが全国で活躍しています。

篠塚さんの父は、27年前から介護旅行を専門に扱う株式会社SPIあ・える倶楽部(以下、あ・える倶楽部)の代表取締役・篠塚恭一さん。あ・える倶楽部は、ご相談に応じてトラベルヘルパーとの介護旅行をプランニングするサービスを行っています。親子2代で「年を取っても、旅行や趣味のおでかけを楽しみたい」という方々を支援するビジネスに取り組んでいます。

それでは、なぜ「トラベルヘルパー」という仕事は生まれたのでしょうか。

もともと、一般的な観光人材の派遣会社を運営していたあ・える倶楽部でしたが、お客さまたちのある悩みに気づきます。それは、年を取るにつれて「自由なおでかけが大変」「車椅子だから出かけられない」と楽しみにしている旅行を諦めてしまうことでした。 ならばと、旅行に同伴し介護支援もできるトラベルヘルパーを考案。1995年に育成をスタートし、翌年に事業化しました。ツアーコンダクターのキャリアを持つトラベルヘルパーも多く、国内外問わず介護旅行を支援しています。

篠塚の顔篠塚
トラベルヘルパーは、おひとりの旅行だけでなく、家族旅行も企画・同伴いたします。とくに家族旅行の場合、身内の方が旅行先でも介護をするとなると大変ですよね。「トラベルヘルパーが一緒だと、家族みんなで旅行を楽しむことができます」と喜んでいただいています。

トラベルヘルパーとホームヘルパーの違い

2009年から日本トラベルヘルパー協会でトラベルヘルパーの育成・教育を担当していた篠塚さん。あ・える倶楽部、トラベルヘルパー協会の運営の中で、日帰りや日常のちょっとしたおでかけ支援のニーズがあることを知り、短時間の外出介護支援を専門とするアエルズをスタートしました。

アエルズの大きな特長は、介護保険外の支援を頼めること。介護保険では、あらかじめホームヘルパーへ頼めることが限られており、日常生活の介護に関する支援が中心です。たとえば通院のための外出はホームヘルパーの支援を受けることができますが、趣味の習いごとに通ったり、孫に会いに行ったりというときには、介護サービス事業者へ依頼ができないケースもあるのです。買い物や家事なども自由に頼めるアエルズは、介護スキルのシェアとも言え、口コミで広がりました。

篠塚の顔篠塚
高齢化に伴い、あ・える倶楽部へ介護旅行のお問い合わせが増えてきた中で、旅行とまではいかない短時間のお出かけニーズがあることに気づいたんです。トラベルヘルパーの活躍の場をもっと広げたいと考えていたこともあり、短時間の依頼も受けていこうと体制を整えました。

しかし、支援依頼の受付やトラベルヘルパーとのマッチングに時間とコストがかかりすぎてしまって…。電話やメールの対応だけでは、あ・える倶楽部で依頼を回しきれなくなっていました。

そこで篠塚さんは、インターネットを使ったマッチングサービスのシステム開発を検討し、2015年1月にソニックガーデンへ相談しました。しかし、ソニックガーデンからの答えは「今はまだ、マッチングサービスを作るタイミングではありません」というもの。

その回答になった理由を、ソニックガーデンの藤原士朗は次のように語ります。

藤原の顔藤原
あ・える倶楽部の相談者は、支援が必要な家族がいる50代から60代の方が中心です。またトラベルヘルパーの方も、平均年齢が48歳とインターネットリテラシーに個人差がある世代。せっかくシステムを作っても、使われないという可能性があります。ですから、いきなりマッチングサービスを作るのではなく、段階的にシステム化を進めませんかとご提案しました。

ソニックガーデンの藤原士朗

この提案に篠塚さんは「不安に感じていた課題を理解し、どのように解決していけばよいか一緒に考えていきましょうという姿勢を感じました」と安心し、正式にソニックガーデンへ開発を依頼しました。

トラベルヘルパーの活動をまとめた「トラベルヘルパーマガジン」でオンラインでの認知を獲得

まずは、オンラインにおけるトラベルヘルパーの認知向上から取りかかりました。

それまで複数のブログで公開されていたトラベルヘルパーの旅行記をひとつにまとめ、メディア「トラベルヘルパーマガジン」をリリース。開発当時は2015年でしたが、スマートフォンの利用を見越し、その対応も進めました。同時に、マッチングサービス開発を見据えたトラベルヘルパーのデータベース化も行いました。

このメディアの狙いは、どのようなトラベルヘルパーが在籍し、支援をしているのか?の可視化。アエルズの事業への理解と、支援を依頼するときのイメージを読者に促します。

藤原の顔藤原
これまであ・える倶楽部が積み重ねてきた旅行記は、コンテンツとしての質が高いんです。たとえば、ほぼ寝たきりだったおじいさんがトラベルヘルパーとの旅行のたびに元気になられていく…。そんな記事が数年にわたって公開されています。

旅行へ行きたい、やりたいことをしたいという気持ちが人生を変えていくことが分かるコンテンツなのです。その力を、もっと世の中へ広げていくという役割をトラベルヘルパーマガジンは持っています。

高齢者はネットが苦手?その理由と対策を一緒に考えていく

メディア開発にあたって大切にしたことは、利用者視点です。記事は、トラベルヘルパーからヒアリングした内容をあ・える倶楽部の担当者が投稿していますが、ゆくゆくはヘルパー自身が投稿することを考えています。

大野の顔大野
ベースはWordPressを使っています。記事を投稿するヘルパーの方々が使いやすいよう、技術的にはシンプルに、操作を簡単にを心がけました。

読む方へ向けては、人の匂いが感じられるデザインにしています。記事を読んでいただいて、お問い合わせをするというユーザー行動を想定していますが、いま主流のチャット相談機能などはつけていませんね。こちらが便利だろうと思う機能も、ウェブサービスに慣れていないユーザーにとっては使いづらいと感じてしまうんです

ソニックガーデンの大野浩誠

かつては個人ブログ色の強かった内容も、検索流入をもとにキーワードを設定し、読み手を想定した文章を書くようになりました。また記事構成も、タイトルやタグ付けなどSEOを意識したものへ変わっています。掲載する写真にもこだわり、「伝えること」にフォーカスした記事作りを心がけています。

篠塚の顔篠塚
電話をしたほうが早いという感覚を持つ世代の人たちへ、ウェブサービスを広めることは難しいです。しかし、なぜ利用者はネットに戸惑ってしまうのか?構えてしまう気持ちを解消するにはどうしたらよいか?ということを、大野さんたちは一緒に考えてくださいました

トラベルヘルパーの仕事は、介護にやりがいと達成感を生む

トラベルヘルパーマガジンには、海外旅行から1週間以上の国内旅行、半日のおでかけなどさまざまな体験談、活動記録が掲載されています。(公開は利用者の許可が出ているもののみ)

篠塚の顔篠塚
トラベルヘルパーは介護保険外のサービスも可能なので、より利用者の気持ちに寄り添った介護ができます。トラベルヘルパーのみなさんからは、”ご利用者の、ずっと行ってみたかったところへ行く”という夢の実現が支援できて嬉しい、仕事に達成感があるという声をいただいています。

C to Cサービスのアエルズにとって、トラベルヘルパーもお客さま。一般的にホームヘルパーをはじめとした介護職は、病院や介護施設などの事業所に勤めるという働き方です。一方のトラベルヘルパーは、短時間の介護や介護保険にしばられない自由なサポートをすることができます。つまりトラベルヘルパーは、介護職の新しい働き方の選択肢にもなるのです。

後半では、マッチングサービス開発のエピソードと高齢者向けウェブサービスの運営ポイントについてご紹介します。

※1 日本トラベルヘルパー協会が定めるトラベルヘルパーの資格は、3級・準2級・2級・1級とあります。実際に外出支援を行える準2級以上のトラベルヘルパーの条件として、介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)などの資格が必要です。

【後半】メインユーザーが50歳以上の「アエルズ」で分かった、高齢者向けウェブサービスの作りかた|株式会社アエルズ

[取材・構成・執筆/マチコマキ]

この記事を共有する