視覚障がい者と健常者がサッカーを通じて混ざりあう社会を実現する【前編】
今回は、ブラインドサッカーの普及、競技者・指導者の育成や、「OFF T!ME」などの体験会を行う日本ブラインドサッカー協会の松崎さん、剣持さんにお会いするため、協会の事務局にお邪魔しました。
体験後のアンケートなど、Excelを利用していた集計をシステム化するため、ソニックガーデンの「納品のない受託開発」導入して頂きました。担当した藤原と共に、倉貫がインタビューを実施しました。
ブラインドサッカーは、社会をより良くしていくためにすごくパワフル!
倉貫
お二人の自己紹介からよろしくお願いします。
松崎
はい。日本ブラインドサッカー協会の事務局長の松崎と申します。サラリーマンをやっていて、5年ぐらい働いた後に脱サラをして、ここにきている形です。まだまだ収益化を目的とするには難しい業界ですがブラインドサッカーの魅力をより伝えていきたいし、このスポーツが社会をより良くしていくためにすごくパワフルなんじゃないのかという印象を持っていたところから、今の立場を頂きました。私はファウンダーでもないですし、事務局長として2代目なんですけれど、新しく様々なことにチャレンジさせて頂いています。
倉貫
松崎さんは専任で?
松崎
はい。8年目になります。
倉貫
8年もされているんですね。では次に剣持さんお願いします。
剣持
はい。僕自身は株式会社Criacaoという会社を2年前に仲間と立ち上げまして、自分たちのサッカーチームも持っています。サッカーの価値とかスポーツの価値をビジネスにつなげていく、反対にビジネスの価値をスポーツ界に持ってくるという、そんな領域を色々広げていく中で、起業する直前に松崎さんと、協会さんと出会う機会がブラインドサッカーの体験会を通してありました。そこで、僕たちに何かできることはないかというご提案をさせてもらい、そこからそういった体験会の運営の部分をやらせてもらうところから入っていって、今はオフィスも一緒にさせてもらっています。僕は日本ブラインドサッカー協会の名刺も持ちながら、ブラインドサッカーへの認知や体験を普及する活動ですとか、ビジネス寄りの企業研修を広げていく活動ですとか、あとはパートナー企業を見つけてくることなど、ビジネス寄りの部分をやらせてもらっている立場になります。
「混ざり合う社会をつくる」ための体験会が「OFF T!ME」
倉貫
松崎さんと剣持さんが最初に出会った体験会というのが、ホームページにもあった「OFF T!ME」ですか?
剣持
はい。
倉貫
「OFF T!ME」という体験会は、どういうサービスなのですか?
剣持
当時は名前も違って、マーブルナイトという名前でやっていました。協会の理念として「混ざり合う社会をつくる」というのがあり、混ざっているんだけど個性を大事にする、色を大事にしているということを体験できる会です。平日の夜にやっていたので、ナイトが付いています。参加して下さった皆さんに目隠しをした体験を通して、コミュニケーションのことを考えたり、チームビルディングや、障がい者の理解などの、多様性を感じるためのワークを体験するというものですね。
倉貫
そこでは、普通に目が見えてサッカーできる人でも、あえて目隠しをするのですか?
剣持
そうです。晴眼者、健常者に対しての啓蒙活動なんです。
倉貫
その人たちが体験として目隠しのブラインドサッカーをしてみるということですね。ちょっとそのブラインドサッカー自体をご紹介頂けますか?たぶんまだ知らない方もいらっしゃると思うので。
チームワークの本質をブラインドサッカーから学ぶ
松崎
はい。ブラインドサッカーは、もともと視覚障がい者のためにつくられたスポーツです。5人制なので、フットサルと同じコートに色んな工夫をしながら、プレーするサッカーになります。工夫の1つ目が、音が鳴るボールですね。これはガシャガシャという音が鳴るようになっていて、音源があるので、聞けばボールがどこにあるか分かります。それだけでは目指すゴールが分からないので、ゴールの裏にはガイドと呼ばれる目の見える人がいて、ゴールの位置と距離、角度、シュートのタイミングなどを声で伝えてくれます。キーパーは見える人です。
倉貫
キーパーは見える人がやるんですね。
松崎
はい。なので、キーパー、ガイド、監督、この3人の見える状態の人がピッチの中に声を掛けていき、見えない状態の4人がお互いのコミュニケーションで情報交換をしながらゴールを奪う、ゴールを守るという、シンプルゲームです。見えないので、チームワークをどう生かしたらいいのかということを深堀りしなければいけないんですね。見えない状態でチームワークの深堀りが必要なスポーツって、世の中広しといえどもブラインドサッカーぐらいなので、その深堀りした中に、見える人にとって大事なエッセンスがたくさん詰まっているんじゃないかと感じています。
倉貫
実はチームワークの本質がそこで養われるのではないか、ということですね。
松崎
そうですね。それを「OFF T!ME」とか、企業研修という、まさに今回のシステムづくりにお手伝いを頂いたところに展開しているという形ですね。
倉貫
なるほど。僕はブラインドサッカーって見たことがなかったんですけど、YouTubeで拝見したら、びっくりするぐらい選手の方の動きやボールの動きが早くて、普通のサッカーと変わらないぐらいのスピード感ですよね。まさに本気のスポーツで、目の見えない方向けのスポーツで特別扱いしている感じでは全然ないんですね。
松崎
はい。視覚障がい者スポーツの歴史的に言うと、安全のためにやってはいけない要素がたくさんありました。例えば攻撃と守備が入り乱れると、それは危険だから、あなたはここからここまで動く、と決まっていたりするんです。ブラインドサッカーでは、限定されないで、自由に動いていいし、衝突自体も禁止していないというところが、チャレンジなんです。今までやっちゃいけないと言われてきたことを、のびのびとピッチの中で、安全性を確保してできるというところが喜びにつながっているんですよね。
世界選手権、6位!障がい者スポーツ史上初の有料化の試合も!
倉貫
そういえば、去年に世界選手権があり、それは日本で開催されたのですよね?
松崎
世界選手権は日本初開催です。障がい者スポーツの国内での国際大会初の有料化の試合をやって、満員御礼も出ました。
倉貫
チャレンジですよね。
松崎
はい。場所も代々木という非常にいいところで。原宿ですね。ソニックガーデンさんのオフィスから歩いて5分ほどのところで(笑)なおかつ、コストをかけて独自のスタンドをつくり、一体感ある会場をつくることができました。障がい者スポーツの見せ方として、新しい見せ方自体をプレゼンテーションできたのかなとは思っています。
倉貫
世界選手権なので、世界中から選手が当然集まってくる。
松崎
はい。予選を勝ち抜いた国々が。ブラジル、アルゼンチン、スペイン、フランスなど12カ国ですね。
倉貫
いわゆる普通のサッカーの強豪国が日本に来るわけですよね。ちょっと興奮しますよね(笑)日本はそんな中で何位だったんですか?
松崎
6位、上位入賞です。
世界一は手段。障がい者を取り巻く環境や生き方にまで波及効果を持たせてこそ日本ブラインドサッカー
倉貫
その辺の日本の選手たちの支援も、日本ブラインドサッカー協会さんはされているんですか?
松崎
そうですね。「サッカーを通じて混ざり合う社会」というのが我々の理念なんですけど、それをドライブしていく唯一の目標は何かというと、我々は2024年に世界一になることを掲げています。普通の競技だと世界一自体が究極の目標であり、それ自体が理念ぽく見えてしまうところがありますよね。けれど我々は代表チーム部含め「世界一は手段」で、勝って障がい者を取り巻く環境や地域社会での生き方など、そういうところまでちゃんと波及効果を持たせてこそブラインドサッカーらしいと考えているんです。とはいえ、やはり世界一になって競技がうまくいくということ自体、エネルギーをすごく付加していく、ドライブしていくことなので、競技活動支援という部分には非常に力を入れています。
倉貫
ただ1位を目指すとか、強くなるだけじゃない、その先を目指すという、そこまでの理念を持って活動している団体は珍しかもしれないですね。そこで先ほどの、健常者の方にも体験して頂ける教室や体験会を広げていこうという形に繋がっているんですね?
松崎
そうですね。混ざり合う社会と言われても、なんとなくいいことなんだろうなとは思ってくださるんですけど、皆さんどういうものなのかはっきりは分からない方が多いんです。その原体験を90分間ぐらいのプログラムまでに落とし込んでいるのが、小学生版でいくと、「スポ育」という学校の授業の中でやる体験学習です。去年でいくと479件やっています。大人向けでいくと「OFF T!ME」という事業ですが、そこは単純に知ってほしいというだけの場ではなくて、理念・体験の場であり、こういうあり方が障がい者と付き合う中で理想なんだなということを感じ取ってもらえる場なんです。我々としてはそうした体験の場、プログラムとしての体験の場を広げていくことが、理念に対して誠実に向き合っていくことなのかなと考えていますね。
ハートウォーミングな体験会だが、「楽しかった」だけで終わらせることが問題になった
倉貫
今回、弊社の藤原と一緒につくらせてもらったシステムの話に入りたいと思うんですけれども、おそらく何か課題あって、そこでソニックガーデンを見つけて頂けたのかなと思うんです。そもそもの最初の課題は何だったのでしょうか?
松崎
経緯としては、たくさんの方に「スポ育」「OFF T!ME」などでの体験をして頂きたいし、そうすることで理念に近づけると考えていました。そこでの体験自体、すごく楽しいんですよね。目隠ししてチームワークをするって誰かを頼ることでもあるし、誰かから頼られることでもあるので、すごくハートウォーミングな体験にもなるんですよ。でも、それをやり終わった後、「楽しかった」だけで終わってしまうことに問題を感じました。子供だったらまだそれでいい部分もあるんですけれど、法人がお金を払って研修をした結果が「楽しかった」で済ませてはいけないと思ったんです。
倉貫
レクリエーションだけで終わってしまうのはもったいないですよね。
松崎
はい。その楽しいだけじゃない気付きの部分をどれだけ可視化させていくかというのが、我々の最初の課題でした。それを2年ぐらいかけて、慶応義塾大学大学院と一緒に共同研究してインデックスをつくったんです。そのコンセプトは「多様性適応力インデックス」と言っているんですが、「多様性の適応力というものは後天的に学べるものなんだ」というもので、しっかりと論文にまで書いて頂きました。可視化したしたものが、調査票として利用できますよ、というフェーズまで持っていったのが第1フェーズですね。それを実際に我々のプログラムを体験する前の人、後の人に対して、アセスメントツールにも使っていたり、組織診断のツールにも使っていたんですね。それをやり始めてみたら意外と評判が良くて、「そっちだけでもできないの?」というニーズもちらほら出てきました。当時そこでやっていた作業というのは、質問用紙をWordで作って意見を回収するというものでした。
倉貫
アンケート用紙みたいなものですね。
松崎
そうですね。そのWordでつくったものを配布し、回収して集計するんですが、全部に丸が付けてあって、この丸はどっちに付いているんだろうと悩みながら、Excelファイルに手打ちをしていく状態でした。100件、200件だったらいいんですけど、どんどんスケールしてくるにつれて、この部分をどうにか改善しなければというところが課題でしたね。
倉貫
なるほど。そのアンケートは、ビジネス向けというか、企業が体験会を通じて、実際にうまく交流ができて、チーム間のチームワークがうまく調整できたかどうかを、体験会の前後でアンケートを取って、差を見て、というような使い方をされていたんですね。あとはそれをどううまく効率化するかというところが悩みだったわけですね。ちなみに、そこでソニックガーデンを知って頂いたのはどういうきっかけですか?
出来上がったシステムを修理するのに追加費用が掛かると考え、迷っていた
松崎
そのExcelも結局、自動的にグラフなどを出すようにしたかったので、Excelをマクロでやっていたんですね。バージョンを8バーションぐらいまでつくって、だんだんアップしていたんですけど、そのExcelのマクロデータをつくってくれていたプロボノ (*1)さんがいたんです。その方もシステムエンジニアなんですけど、その方に相談をしたら、その方は「Excelマクロを組むんだったらお手伝いしていくよ」という形でやってくれていたのが、バージョン8あたりで「これ以上だとちょっと僕も無理だな」となりまして。
*1 プロボノ:職業上持っている知識・スキル・経験などを活かし社会貢献やボランティアを行う専門家のこと
剣持
バージョン8ぐらいまで上げたんです(笑)
松崎
そこまでで「もうちょっとこういうことをしたいんだけど」、「こうやって見えちゃうけど、実はこうしたいんだよね」という感じで、プロボノさんにアラを出させて頂いたので、いよいよシステムに落としていったほうがいいんじゃないかと。ただ、我々の事情としては懐事情も決して豊かではないですし、もう本当によくあるパターンで、つくってみたらちょっと想定と違うのに修理するのにまた追加で費用が掛かってしまうパターンなどを考えたときに、及び腰になっていたんです。そんな時、その方がソニックガーデンさんの本を読まれて、倉貫さんのセミナーに行かれたんですよね。それで、我々に「こういう仕事の進め方があるよ」と説明会の資料を私に逆プレゼンしてくれて、「それだったらうちもいいかも」と思い、お問い合わせをさせて頂きました。
倉貫
そうなんですか。そのExcelバージョン8までいった方を、ちょっと僕は抱きしめたい(笑)。
経験上、システムの会社の方と直接話しても、噛み合わない気がしていた
倉貫
それでお問い合わせ頂いて、最初にお話ししたのは藤原かなと思うんですけど。ソニックガーデンのオフィスに来て頂いて話したのかな?
藤原
最初はそのプロボノのシステム担当の方に、8月に来て頂いて、その方と10月11月と開発をして、2カ月ほどして、ある程度できたタイミングで、ブラインドサッカーさんの事務所にお伺いして、ここまでできましたよという報告会にて初めてお会いしました。
倉貫
じゃあ、12月まではまだソニックガーデンの人間と松崎さんは会うことなく、藤原は、バージョン8まで作った方と直接開発していんたんだ?
藤原
そうです。
松崎
ちなみに、その方はヒラタさんといいます。あだ名はヘイタさん(笑)ヒラタを音読みにしてヘイタさん。
藤原
ヘイタさんが仕様については把握されていたので、彼とシステムの仕様、業務の簡単なフローをちょっとお聞きしながら基盤をつくるということを進めていました。
松崎
あとは、イメージですね。正直言って、ソニックガーデンさんのビジネスモデルは聞いていたとしても、やっぱり過去の経験上、システムの会社の方と直接話しても、微妙な気持ちの違いで噛み合わない気がしていました(笑)
倉貫
経験上、伝わらない、と思ってしまったんですね。
松崎
ヘイタさんをすごく信頼してたし、ずっとつくり上げてきているプロセスで目的もしっかり分かって下さっているヘイタさんを窓口にさせて頂いたほうがスムーズなんだろうなと考えていました。実際にその部分はたぶんにあったと思っていますし、そういうわけで完全にお任せしちゃっていましたね。
衝撃の提案。「システム化はやめましょう!」
倉貫
10月から2ヶ月ぐらい、ヘイタさんとこちらのほうでじっくりシステムをつくっていって、ある程度のバージョンができあがった状態で12月に見てもらったという感じ?
藤原
そうですね。基本的な仕組み、メールを飛ばして、アンケートに回答して、データを取り込んで分析できるというところぐらいまでは作っていました。
松崎
確か最初はマークシートのご提案でしたよね。結局マークシート案はボツになりましたけど、僕ら的には衝撃的でした。「マークシートなんてあるんだ!」という感じで、後々も盛り上がっていました。
藤原
アンケートの回収率が高くないと今回の仕組みは意味がないんですよね。おそらく今までは用紙にその場で記入していたので回収率が高かった。これをこちらの都合でWeb化してしまうと、後日メールでの回答依頼では面倒くさくなって、回収率も落ちちゃうかなというのがリスクだと思ったんです。なので、全てをWeb化しないで、紙とデジタルの折衷案みたいなところでマークシートがいいんじゃないかと。そうすれば、利用者が急激に増えて1000枚の解答用紙が来てもダーって読み込めるので、大丈夫なんじゃないかなということでマークシートをご提案しましたね。
倉貫
じゃあ、最初の提案はそれだったんですか?
藤原
そうですね。「わざわざシステムをつくるのはやめて、マークシートにしましょう」という提案(笑)。
松崎
衝撃的でしたね(笑)
OFF T!ME http://www.offtime.jp/