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Rubyで開発した基幹システム「Panair Cloud」が新しい電力サービスを作る【第2回】


電力小売供給基幹システム「Panair Cloud」を通して、ITを使った電力サービスを展開する株式会社パネイル。代表取締役社長の名越達彦さんは、旧態依然とした電力業界の環境の中で突破口を探します。そして、基幹システムをRubyで開発することがイノベーションになると決断しました。「Panair Cloud」の開発秘話に、ソニックガーデンの倉貫義人が迫ります。

目次
  1. ベンチャー企業が、お堅い電力業界へ参入するまで
  2. 電力業界に、ベンダー企業からベンチャー企業への流れを持ち込む
  3. 少人数で、電力会社は運営できる
  4. 日本の電気代は、ITの技術で下がります

大手はマネできない、ベンチャーだからできる基幹システムの自社開発

倉貫の顔倉貫
名越さんは「Rubyで電力供給をする基幹システムを、作ることができるのではないか?」と気づいた。ここが、大きなターニングポイントだったのですね。
名越の顔名越
そうですね、当初このアプローチについて各所に相談したところ、ネガティブな答えが殆どでした。これは新しい事業にありがちな話で、全体を見渡して適切なリスク評価ができないんですよ。たしかに、技術力だけあっても駄目ですし、業界理解だけあっても駄目なんですよね。ただ、このとき我々には絶対にうまくいくというイメージが直感的にありました。
倉貫の顔倉貫
誰もITでは作れないと思っていた基幹システムを、Rubyで簡単に作り直してしまおうという発想。業務の理解とIT両方の知識がある名越さんだから、できると気づいたんですね。基幹システムには、具体的にどのような機能があるのですか。
名越の顔名越
たとえば、顧客管理と請求管理、そして電力業界特有となる需給管理があります。これは電気の仕入れがいくらで、お客さんに販売するのがいくらという管理を行います。電気は生鮮食料品と同じようなもので、原則、貯めておくことができません。ある時点においての仕入れと販売の量を合わせるという仕組みが必要なのです。ここが一番大変なところです。
倉貫の顔倉貫
需給予測をミスしてしまうと、利益率が低くなってしまいますよね。どこまで販管費・オペレーションコストを下げられるかというのがポイントだと。でも、どこの企業も横並びで高い基幹システム買って取り組むとなると、黒字になるまでが大変ですね。
名越の顔名越
各社、さまざまな努力をしてコスト削減に取り組んでいます。パネイルは、テクノロジーの力で研究開発を積み重ねてきました。大手企業のように潤沢な予算がないからこそ、自分たちで基幹システムそのものを構築してみよう、という発想になったわけです。
倉貫の顔倉貫
自社でシステム作って持ってしまえばいいじゃないかというのが、発想の転換だったわけですね。おもしろいなあ。業界の先入観を崩して、ソフトウェアで新しく作り直す。僕、そういうの大好きですね。
名越の顔名越
他の業界でよく起こっている、ベンダー企業からベンチャー企業へ変遷する流れを電力業界に持ち込みたかったんです。
倉貫の顔倉貫
「明日からRubyのチーム作って、スモールビジネスでアジャイルやるぞ」はすぐにできないことです。それは歴史が証明してきていますからね。

技術者泣かせの依頼と分かっていても譲れなかった。Panair CloudをRubyで開発した理由

倉貫の顔倉貫
ビジネスのポイントが分かった後は、順調に進んだのでしょうか?
名越の顔名越
それが、実際に研究開発を始めてみたら、困難の連続でしたね。一番辛かったことは、通信プロトコル。昔のPOSシステムで使っていたような、JX手順といわれるプロトコルが電力業界の標準になっていました。
倉貫の顔倉貫
Rubyで実現するのは不可能な気がしますね。どうやって対応したんだろう。
名越の顔名越
電力業界の様々な仕様書を伊藤さんと一緒になって読み込んだところ、電力自由化のタイミングでWeb APIが公開されることに気づいたんです。まず一歩前進しました。ところがこのAPI、JSONのようなイマドキのAPIではなかったんです。SOAPと呼ばれるレガシーなAPIで、これが2016年に新しい機能としてAPI公開される、目を疑うような状況でした。
倉貫の顔倉貫
かろうじてHTTPプロトコルですが、一難去ってまた一難……。
名越の顔名越
非常に辛かったのは、今回の要求仕様に合うRubyのライブラリが、ひとつもなかったことでした。そこで、伊藤さんとの最初の取り組みは、この電力業界向けのライブラリをフルスクラッチで開発するところからでした。でも、伊藤さんは困り果てていましたね。
倉貫の顔倉貫
泣きますよね、これは技術者泣かせだと思います。Javaや.NETだったらライブラリがありますよね。そこを、あえてRuby on Railsでやっていこうと考えたのは、どのような狙いがあったんですか?
名越の顔名越
たしかに他の言語で実装すれば既存のライブラリを活用できますよね。ただそれだとRubyの良さを引き出せないだろうなと思いました。逆に、この大きな技術的課題を乗り越えると、その後にRubyの良さ、ひいては伊藤さんの強みを全力で引き出せるのではないか、という狙いがありました。
倉貫の顔倉貫
そのあとの開発・メンテナンス・生産性を考えると、Rubyを選んだ方が圧倒的に柔軟だし、対応もしやすい。基幹システムであってもメンテナンスは行うわけだから、Rubyでどんどん作って改修していくというのが良いと考えたのですね。

Panair Cloudはアジャイル開発とRubyの良さを最大限に生かしたシステム

名越の顔名越
Panair Cloudのリリース後、実際に私たちの強みがはっきり現れた出来事がありました。電力自由化の2016年、東電や関係各所の一部システムの不具合が発生し、データに欠損があったり、仕様にないデータが送られたり、市場が混乱する状況が発生したんです。
倉貫の顔倉貫
外的要因で大変なことが起きてしまったと。こういうときは、ベンダー側と販売先でトラブル発生のタイムラグが生まれやすいんですよね。あらためて仕様要件をとりまとめて、改修してリリースしなくてはいけない。そのスピード感をあげようとすると、ベンダー側はマンパワーをかけざるを得ないですし、結果としてコストになってしまいます。
名越の顔名越
ご存知の通りRuby on Railsは、とても柔軟性の高いフレームワークです。また、いくつかフェイルオーバーのポイントを作りながらPDCAを回していたので、想定外の状況が発生してもすぐに対処できました。仕様のズレや、実際にやってみて微妙に違っていたというポイントに対し、スピード感をもって粛々と対応できました。
倉貫の顔倉貫
ゴールへ向かって一直線に作りますというウォーターフォール型の開発は、仕様が変わるとリカバリが大変ですからね。しかもパネイルの場合は自分たちで内製した基幹システムを持っている。これは強みです。
名越の顔名越
まさに、アジャイル開発とRubyのよさを100%生かしきったと感じてます。
倉貫の顔倉貫
こうして、Rubyで開発した電力小売基幹システム「Panair Cloud」が日本で初めて誕生した。素晴らしいことですよね。完全にウェブシステムというのが、また面白いです。
名越の顔名越
Panair Cloudは、AWSのクラウド基盤上に構築しています。サービスインの段階から、電力データはすべてビッグデータのDBにありますし、また機械学習などに繋げています。
倉貫の顔倉貫
電力の中身はデータですものね。金融と同じで物理的なものがあるわけではなく、数字を見て商売をする世界だと思います。ならば、自社で持っているデータを抱え込んで管理だけするよりも、クラウドにいれてビッグデータとして扱う方が圧倒的に価値が出ますね。

<第3回へ続く>

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