ラグビー日本代表ほかトップスポーツチームをITで支える、ONE TAP SPORTSの開発ストーリー【第1回】


今年9月に、ラグビーワールドカップ2019日本大会が行われます。前回のイングランド大会では、日本代表が強豪の南アフリカ代表に勝利し、ラグビーへの関心が大きく高まりましたよね。

タフでありながら、クレバーなスポーツと呼ばれるラグビー。とくに、体格差のある海外の選手達と戦う日本代表は、険しいトレーニングとともに、コンディション管理もかかせません。そんな日本代表を、テクノロジーで支えている企業が株式会社ユーフォリアです。

同社が提供するシステムは、ONE TAP SPORTS。選手達の日々の体調やトレーニングデータをもとにコンディション管理を行い、ケガを防ぎ、チームのパフォーマンスを高めることを目的としています。

実は、ラグビー日本代表から開発依頼があり、誕生したONE TAP SPORTS。今回のお客様事例では、その開発にまつわるストーリーを3回に渡ってご紹介します。

インタビューにご参加いただいたみなさま

  • 株式会社ユーフォリア 代表取締役/Co-Founder 橋口寛さん
  • 株式会社ユーフォリア 代表取締役/Co-Founder 宮田誠さん
  • 株式会社ソニックガーデン 取締役 CIO 安達 輝雄
  • 株式会社ソニックガーデン プログラマ 中谷 一郎

アスリートのコンディション管理やチーム力を高めるONE TAP SPORTS

株式会社ユーフォリアが開発・運営するONE TAP SPORTSは、アスリートのコンディションやトレーニングデータなどを登録し、管理するSaaS型のシステムです。ウェブアプリから、アスリートひとりひとりの活動や状態を入力し可視化することで、ケガの防止に役立てるだけでなく、チームのコミュニケーション活性化やデータに基づいたマネジメントを実現。チームのパフォーマンスを高めることを目的としています。

ONE TAP SPORTSの画面。コンディショニングデータから、比較・分析ができる。

ONE TAP SPORTSが用いるデータは、選手が入力した主観データと走った距離やトレーニング内容といった、客観的データです。さらに、主観データの背景にも睡眠時間やその質が影響しているなど、様々な要因があります。ONE TAP SPORTSは、これらデータから関連性を導き、分析し、ケガ予防やマネジメントにつなげているのです。

このように、アスリートを様々な角度からデータでモニタリングし、ベストの状態に向けて管理していくシステムは、ITとスポーツを掛け合わせたスポーツテックの分野のひとつとなっています。

ラグビー日本代表からの、幸運で運命的なオファー

2008年に創業した、ユーフォリア。当時、コンサルティングを中心に事業を展開していた同社が、ONE TAP SPORTSを開発し、リリースしたのは2012年のことです。開発のきっかけとなったエピソードを、共同代表の橋口 寛さん、宮田 誠さんに聞きました。

株式会社ユーフォリアの共同代表・橋口 寛さん、宮田 誠さん

橋口の顔橋口
ONE TAP SPORTS開発のきっかけは、ラグビー日本代表との出会いからでした。W杯2019日本大会の開催が決まり、世界の名将エディー・ジョーンズ氏をコーチに迎えた日本代表は、2015年のW杯イングランド大会でベスト8を目指すという高い目標を掲げていたのです。そのためには、これまでと量も質も段違いのトレーニングをしなければなりません。そのとき気をつけなければならないことは、ケガです。

そこで、コンディションの状況をデータ化し、ケガのリスクを可視化するだけでなく、強いチームと戦い、負けない体を作るフィジカル強化のプロセスが見えるようなデータベースを作れませんかと、相談をいただいたのです。

日本代表の勝利への強い意志と、新しいことへチャレンジしていく姿勢に刺激を受けたユーフォリアは、開発を引き受けました。さらに橋口さんは、長年のラグビーファン。「願ってもない縁だ」と感じたそうです。しかし、日本代表が求めるシステムは、そもそもこの世に存在しておらず、完全にゼロからの構築が必要でした。

宮田の顔宮田
日本代表チームからのリクエストは、アスリートひとりひとりの体調、練習などを登録することで、チームの日々の営みを見える化するシステムでした。アスリートは、ピークを試合当日に持ってくるためのピーキングが必要です。体調管理などは以前から行われていましたが、データを用いてそれらを精緻にしていくことは、当時の国内において、一般的ではなかったと思います。私たちも、まず日本代表の戦略を理解し、どのようなデータを登録して可視化するかを考えていきました。

そして、2015年のW杯イングランド大会。日本代表は、世界ランキング3位(2015年11月2日時点)・W杯2回優勝を誇る、強豪の南アフリカ代表相手に歴史的な勝利を収めます。そのとき、宮田さんと橋口さんは、日本から応援していました。大勢のファンが集まったスポーツバーの大歓声の中で迎えた劇的な瞬間に、橋口さんは膝から崩れ落ちるほどに喜んだそうです。

スポーツサイエンスが進むラグビーの存在が、ONE TAP SPORTSを生みだした

この南アフリカ代表戦で、ラグビー日本代表への関心は一気に高まりました。あわせて、勝利の一因となったチームマネジメントとパフォーマンス向上に寄与していると、ONE TAP SPORTSも注目されるようになったのです。

宮田の顔宮田
ありがたくもONE TAP SPORTSへフォーカスいただくことが増えましたが、私たちのサポートは、最高峰のコーチとチームスタッフ、そしてアスリート達の最高のスキルといった、何十何百の要素がある中のたった一部に過ぎません。けれども、チームドクターも含め、皆さんから“役立った”と言われ、本当に幸せでした。宝物のような経験ですよね。

そして橋口さんは、ONE TAP SPORTSを、まずラグビーと一緒に開発できたことが幸運だったと話します。橋口さんいわく、「ラグビーは日本において、もっともスポーツサイエンスの取り組みが進んでいる競技」の1つ。その背景には、プレー強度の強いスポーツ・ラグビーが抱える、避けられない要因があります。

左奥に座るのが、ソニックガーデンプログラマ・中谷 一郎。隣は、ユーフォリアのCTOも務める安達 輝雄。

橋口の顔橋口
ラグビー選手の疲弊は、想像を絶します。1試合終えると、リカバリと次の試合への準備に1週間ほどの時間を必要とするんです。ですから、リカバリやコンディショニングがとても大事ですし、ケガも起きやすいため、その予防にも気を配ります。このように、プレッシャーが強いスポーツですから、スポーツサイエンスの知見が集まりやすいんです。

スポーツサイエンスが進んだラグビーによる機能面のリクエストは、とことんハイレベルでした。スポーツの中で、もっとも厳しいクライアントの1つだと思います。その分、私たちも真摯に向き合い、良いシステムがご提供できました。

南アフリカ代表に勝とうという目標を、ラグビー日本代表に関わるみんなが信じて取り組んだんですよね。私たちにとっても、そのやりがいたるや…、素晴らしいことでした。とてもありがたくて、ラッキーなことだったと思います。

現在も、ユーフォリアはONE TAP SPORTSを通してラグビー日本代表をサポートしています。今年9月に迎える、ラグビーW杯日本大会への意気込みを聞きました。

宮田の顔宮田
イングランド大会から4年が経ち、日本代表の体制も変わりました。スポーツサイエンスも進み、何が大事なのか?の視点が、2015年当時と全く別物と感じています。それに対し、常にユーフォリアができることを考えています。仮説を伝えてディスカッションする関係値があることが、ありがたいです。新しい機能、数値をお見せしようと日々開発を進めています。

開発や改善を重ねてきたONE TAP SPORTSは、いまやスポーツの種類を問わず、多くのチームに導入されています。現時点で、プロ野球12球団のうち約半分、Jリーグも約15クラブが導入。プロチームだけでなく、大学や高校の部活チームでの利用も進んでいます。また、ユーフォリアはブラインドサッカー日本代表の競技力向上パートナーとしても支援をしています。

ユーフォリアのオフィス内には、さまざまなスポーツのユニフォームが飾られています。

では、なぜソニックガーデンが、ONE TAP SPORTSの開発に関わることになったのでしょうか。

ラグビー日本代表からのオファーがきっかけで誕生した、ONE TAP SPORTS。リリース以降も、スポーツサイエンスの進化や導入チームの増加に伴い、継続した改善と機能強化が必要でした。またアスリートは、試合当日に最高のパフォーマンスを発揮するため、コンディションのピーク調整(ピーキング)を行います。つまりONE TAP SPORTSは、練習や試合スケジュールを考慮した、スピーディな開発が求められるのです。これらの課題を解決すべく、ユーフォリア開発陣とソニックガーデンがタッグを組み、納品のない受託開発が始まりました。

ユーフォリア・お客さま事例第2回では、ONE TAP SPORTSにソニックガーデンが関わるようになったきっかけと、開発の様子をご紹介します。

次:まるで勝ち続けるスポーツチームのような一体感。ONE TAP SPORTSの開発体制は、スポーツへの理解とディスカッションでできている【第2回】

参考URL: https://www.rugbyworldcup.com

[インタビュー・構成・執筆/マチコマキ]

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