【業務ハック事例】パイプライン管理で業務のボトルネックを見つける。コマツ・CTO室に聞く、業務改善のアイデアとヒント
今回、業務ハックの事例としてご紹介する企業は、油圧ショベルやブルドーザーなどの建設・鉱山機械の開発・販売を、グローバルに手がける小松製作所(以下、コマツ)です。
同社のCTO室に所属する笹井健史さんと佐々木猛さんから、業務ハックの依頼をいただき、kintone(キントーン)を使った案件管理のアプリケーションを開発・運用しています。
建設現場全体をICTで繋ぐソリューション「スマートコンストラクション」を生み出したCTO室のミッションは、新しい技術を持つ国内外の企業や組織とコマツを繋ぎ、イノベーションを起こすこと。
しかし、担当者1人ひとりの裁量が大きいぶん、明確な業務プロセスがなく、お互いが何をしているかが分かりませんでした。そこで、複雑なプロジェクトを管理し、チーム内で共有するため、笹井さんを中心に業務プロセス作りが始まります。
コマツ流の業務改善を、本案件を担当するソニックガーデンのプログラマ・池上香苗が聞きました。
【コマツの業務ハックのポイント】
- 「業務改善をしなければ」と、チームで認識をそろえた。
- サイロ化していた業務の中に共通点を見つけ、シンプルな業務プロセスを作った。
- 「改善し続ける」マインドと社風がある。
スマートコンストラクションを生み出したCTO室
池上
2018年からソニックガーデンが担当する、コマツさんの業務ハックをご紹介します。まずは、笹井さん、佐々木さんが所属されているCTO室について教えてください。
佐々木
2014年に立ち上がったCTO室は、イノベーションを目的とした研究開発の組織です。国内外の大学や研究所、企業と連携し、スピード感のある技術革新、新しい価値の創造を担っています。ベンチャーやスタートアップ、ベンチャーキャピタルなど、これから成長していく企業との協業も特徴です。
CTO室・技術イノベーション企画部の佐々木猛さん。機械系のデザイナーとして、コマツへ入社した。
笹井
CTO室内は、事業ドメインごとに3チームで構成され、技術領域ごとの担当制です。シリコンバレーやヨーロッパなど、海外への出張も多く、私はユニークな技術を持つ海外の企業とコマツを引き合わせ、将来を見通した新しい研究プロジェクトの創出を担当していました。
笹井健史さん。現在は、開発本部業務部人事グループに籍を置き、海外留学中。
佐々木
必要とあれば、現場に張りついて、プロジェクトが軌道に乗るまでつき合うこともあります。ですから、半年から年単位の長期プロジェクトが多くなりますね。
納品のない受託開発で、継続的なシステム活用をサポート
池上
海外出張から現場までと、CTO室の業務はとてもタフですね。では、チーム内にどのような課題があって、ソニックガーデンへ業務ハックを依頼されたのでしょうか。
笹井
まず、メンバー間で情報共有ができていませんでした。また、同じような仕事をしているのに、属人的な業務プロセスも課題でした。人事異動も多く、新しい担当者への引き継ぎも、充分にできていなかったのです。
佐々木
個別の活動や出張が多いため、会社で顔を合わせることが少なく、自分の案件は自分しか知らないサイロ状態でした。さらに、担当者それぞれが数十件近い案件を持ち、それに紐づく資料などの膨大な情報を、第三者が分かる形で管理できていなかったのです。ですから、急に「全体のレポートをしてほしい」と言われると、困ってしまいました。
池上
なるほど。そこで、共通の業務プロセスを作って、案件管理や情報共有をしようと考えられたのですね。
笹井
はい。CRM(※1)の領域でシステムを検討し、どんな人でも使いやすそうなkintoneを採用しました。あわせて、知り合いから業務ハックの評判を聞いていたのです。その上で、ソニックガーデンさんにお願いした理由は2つあります。
1つ目は、アジャイル開発です。私たちもkintoneを学習したかったので、ツールの機能を確認しながら、ステップを踏んで開発するアジャイル開発に興味がありました。
1つ目は、アジャイル開発です。私たちもkintoneを学習したかったので、ツールの機能を確認しながら、ステップを踏んで開発するアジャイル開発に興味がありました。
※1・CRM・・・Customer Relationship Managementの略で、顧客管理を意味する
笹井
そして2つ目は、納品のない受託開発です。私たちのミッションは、コマツの研究ビジネスの発展ですから、システムの改善やメンテナンスにリソースを割くことは難しいんです。また、異動の多いCTO室に、いつもシステムに詳しい人材がいるとは限りません。
これらの理由から、開発・納品して終わりではなく、継続してお付き合いできるソニックガーデンさんの関わりかたが、私たちの組織とマッチすると考えました。
これらの理由から、開発・納品して終わりではなく、継続してお付き合いできるソニックガーデンさんの関わりかたが、私たちの組織とマッチすると考えました。
池上
コマツさんには、納品のない受託開発の、新しい価値を見つけていただいたと思います。私たちが外部から関わり、例えるなら管理者となって、システムが継続的に使われていく体制をサポートする。ソニックガーデンとしても、これまでにない関わりかたです。
業務改善のファーストステップは、チームの認識をそろえること
池上
続いて、業務改善についてうかがいます。ソニックガーデンの業務ハックは、現場から小さい工夫を重ねて、業務を改善していく方法です。いつもはお客様と一緒に、課題を考えることから始めていきます。
対して笹井さんたちは、はじめからご自身で課題とその解決策の仮説を立てて、システムのデザインモックも作られていました。どのようにして、基盤の業務プロセスを考えたのですか。
対して笹井さんたちは、はじめからご自身で課題とその解決策の仮説を立てて、システムのデザインモックも作られていました。どのようにして、基盤の業務プロセスを考えたのですか。
笹井
まずは、業務の共通点を見つけて「このような段階を踏んでいる」と認識をすり合わせていきました。はじめは、みんなもやっとしているんですが、ざっくりと分類していきました。
笹井
しだいに業務が分類できてくると、今度は「このケースは、どっちだろう?」と困る場合も出てきます。そのときは、緩やかな物差し(判断基準)を仮で決めおきして、プロセスを作っていきました。
笹井
意識をしていたのは、業務のパイプライン管理(※2)です。3〜4フェーズぐらいで区切ると、フェーズごとにKPIが見えてきます。それを計測すると、どのフェーズがボトルネックになっているかが分かるようになります。パイプラインは、まず私がたたき台を作り、同僚と意見をすり合わせていきました。
※2・パイプライン管理・・・案件の発生から提案・受注・納品までを、1本のパイプのように見立てて可視化し、管理する方法。
池上
みんなの認識をそろえていくことが、大切ですね。
佐々木
はい。各担当者が、業務のサイロ化に伴う課題を自分ごととして捉え、解決しようと関心を持ったからこそ、連携できたと思います。みんなに声をかけ、業務改善の提案をし続けてきたのは、笹井なんです。みんなの認識がそろったことで、笹井の構想が一気に進みました。
笹井
他社の事例や書籍を参考に、自分なりに業務改善の方法を学びました。とくに、アンドリュー・S・グローブの『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、業務改善に関心のある方にオススメしたいです。
作り込まない、シンプルな業務プロセスを心がける
池上
では、業務プロセスを作るときに、気をつけたことを教えてください。
笹井
複雑にしないことです。プロセスは変わる物だと考えて、作り込みしすぎずシンプルに、社内のいろんな立場の人達と話をしながら作っていきました。知りたいことをクリアにして問うことと、事実確認が重要です。
池上
シンプルさは、システム開発にも重要な視点です。システム開発が目的ではなく、本来のビジネスの達成がゴールですから、シンプルに使いやすく、使い続けやすいシステムが大事なんです。
佐々木
データ構造もシンプルですし、入力面のデザインも、習慣化を考え、笹井がこだわり抜いて考えました。肌感覚ですが、システム導入前よりも2割程度の工数削減ができています。
笹井
社内のラーニングも、今回は「習うより慣れろ」が1番当てはまると思い、シンプルなマニュアルを作りました。はじめに、システムを導入するに至ったストーリーと目的を説明して、業務改善への共感につなげています。
業務改善はコマツのカルチャー
池上
笹井さんたちのシンプルな思考は、日々のやり取りからも感じます。アジャイル開発では、はじめにすべての要件を決めない反面、「こんなことできそう」など話が広がり、方向性を揃えるのが難しいときがあるんです。
でも笹井さんたちは「1番大事な機能を開発して、足りなければそのときに考えましょう」と、迷いがありません。また、決断のスピードも早いため、私もすぐに開発へ入れます。決裁権がある方の参加は、業務ハックを成功に導く欠かせない要素です。
でも笹井さんたちは「1番大事な機能を開発して、足りなければそのときに考えましょう」と、迷いがありません。また、決断のスピードも早いため、私もすぐに開発へ入れます。決裁権がある方の参加は、業務ハックを成功に導く欠かせない要素です。
佐々木
コマツは製造業ですから、毎日の改善活動が生業のように染みついているんです。問題点の検出能力やそのアンテナを張れる人材が多いですし、「改善していく」マインドを貫ける自信が社風にあると思います。ソニックガーデンさんが、そのカルチャーに共感いただいたからこそ、成功できたと思います。
池上
ありがとうございます。それでは終わりに、業務ハックの感想やソニックガーデンへのご要望、そしてコマツさんのこれからの展望を教えてください。
佐々木
ソニックガーデンさんとは、何でも相談できる関係性があります。また、ご提案いただいた解決策に、私たちの考えも重ね、より最適な案を作るなど、お互いに貢献しあえているなと感じます。
笹井
「kintoneをこんなふうに使ってみたい」と考えたとき、すぐに相談できるので助かっています。なにより、スピード感が素晴らしいです。
佐々木が話した通り、コマツは改善へのモチベーションが高い組織です。コマツのカルチャーとソニックガーデンさんの業務ハックは、DNAレベルで親和性が高いかもしれませんね。今後も、お互いが成長し合える環境を築いていきたいです。
佐々木が話した通り、コマツは改善へのモチベーションが高い組織です。コマツのカルチャーとソニックガーデンさんの業務ハックは、DNAレベルで親和性が高いかもしれませんね。今後も、お互いが成長し合える環境を築いていきたいです。
佐々木
正直な話、ITのバックグラウンドがない私は、アジャイル開発に懐疑的なところもありました。しかし、やりたいことをスピーディに、どんどんブラッシュアップしていく面白さを体験すると、今後はこんなやり方が採用されていくべきだと、私自身の考え方も変わったんです。いい経験をさせて頂いたと思います。
今後も、システム開発以上の経験や連携を重ねていきたいです。ゆくゆくは、開発しているシステムを、チームを越えて横展開したいと考えています。
今後も、システム開発以上の経験や連携を重ねていきたいです。ゆくゆくは、開発しているシステムを、チームを越えて横展開したいと考えています。
池上
私も、コマツさんから新しいことに挑戦する機会をいただいています。これからも、どうぞよろしくお願いします。
取材をしたお客様:コマツ
- インタビュアー/ライティング:マチコマキ
- 広告営業&WEBディレクター出身のビジネスライター。専門は、BtoBプロダクトの導入事例や、広告、デジタルマーケティング。オウンドメディア編集長業務、コンテンツマーケティング支援やUXライティングなど、文章にまつわる仕事に幅広く関わる。ポートフォリオはこちらをご参考ください。