【それって本当にリモートのせいなの?】リモートワークの前に考え直したい組織や事業の在り方
<前編>ではソニックガーデン代表の倉貫に全社員リモートワークの働き方についてや、リアルオフィスを撤廃して仮想オフィスへと移行した過程について聞いてきました。
後編は、リモートワークにかかせないセルフマネジメントや「管理職がない」「目標管理がない」などのソニックガーデンならではのカルチャーについて教えてもらいながら、リモートワークの前に考えたい会社のあり方や採用について迫ります。
<前編はこちら>
【オフィスはオンライン上で再現できる?】オフィスをなくした会社が考えるリモートワークの課題
目次
ソニックガーデンには管理職がないって本当?
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ソニックガーデンには中間管理職がいないって本当ですか?
倉貫
中間どころか、そもそも管理職がいません。経営陣はいますが、彼らも社員の管理はしてません。
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そうなんですね!最近、ホラクラシー組織なんて言葉がありますよね。
倉貫
海外で5、6年前から言われるようになった組織経営のコンセプトですね。ソニックガーデンはホラクラシーにしようと思っているわけではないですが、特に海外の方や周りの人からは「ソニックガーデンはホラクラシーですね」という言葉をいただくことがあります。
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社長、役員の他は、肩書はフラットなのですか?課長とか部長はいない?
倉貫
そうですね、いません。社長とか役員の肩書も法律上つけてますが、社内では役員相手でもニックネームで呼び合っているので、あまり肩書の実感はないです。
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管理するのは自分自身ってことなんですね。かっこいい言い方をすれば会社組織の民主化を極限まで進めた、ということですね(笑)
倉貫
かっこいい言い方すれば・・・そうですね(笑)
在宅勤務だから生産性が高いのではなく、セルフマネジメントができているから生産性が高い
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前回リモートワーク導入のハードルとしてセルフマネジメントをあげていましたが、課題となったのにはどういうプロセスがあったんですか?在宅で気が緩んじゃってパフォーマンスがあがらないみたいなことがあったり?
倉貫
いえ、在宅勤務をするためにセルフマネジメントを重視するようになったわけではないんです。これはソニックガーデンだけではないと思いますが、昨今は仕事の内容がどんどん高度で複雑になってきています。すると、そもそも現場のメンバーに対して、上司が細かく指示命令できることがなくなってきているんです。
倉貫
そんな状況で、外的な要因で指示管理される状況と、個人の裁量やモチベーションで自己管理するのでは、どちらが品質や生産性の向上に貢献するかを検討したんです。その結果、自律的に働いてもらったほうが生産性は高くなるという考えのもと、セルフマネジメントを会社としてとても重視するようになりました。
倉貫
なので順序が逆で、セルフマネジメント重視の結果、リモートワークに移行しても大きな問題にならなかったのだと思います。
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生産性の話で言うと、在宅にすると本当に生産性があがるのか?みたいな議論がありますよね。海外の実証研究では中長期的にみると確かに上がるというのが共通認識みたいで。ただ、前回も触れましたが準備期間がないままリモートワーク導入をしてかえって生産性が下がってしまったという深刻な状況も聞きます。
倉貫
それにはおさえるべきことが、2つあると思います。1つめは、在宅勤務だから生産性があがるということではないと私は見ています。本当に生産性が上がるかどうかは働く場所よりも、自律的に働けるチームかどうかのほうが与える影響はとても大きい。ソニックガーデンでいえば、在宅勤務だから生産性が高いのではなく、セルフマネジメントができているから生産性が高いのだと思います。
倉貫
2つめは、リモートワークでの生産性を評価する期間をどのくらい長く確保したかです。私はこれをよく自転車に例えるんです。自転車に乗れない人が自転車に乗ろうとする場合、乗れるまでの練習期間はどうしたって不便が生じます。むしろ歩くよりもずっと遅くなってしまうかもしれません。
倉貫
リモートワークもそれに似ていて、練習している段階では以前よりも遅くなった感じがしてしまう。はじめたばかりでは生産性が落ちてしまうのは当たり前なんです。新しい仕事環境に慣れるにはある程度の時間がかかります。乗りこなせるようになるまで、まずは続けてみませんか?とよく言っています。
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なるほど。ちなみに、セルフマネジメントの方が生産性が上がると定量的に実感した瞬間はありますか?
倉貫
数字の根拠はないのですが・・・ソニックガーデンは元々は大きな会社の社内ベンチャーをやっていました。それを2年かけて成功させてMBOという形で独立したのが始まりです。
倉貫
当時、社内ベンチャーとして新規事業を作るミッションを掲げて仕事をしていました。そこで、生産性を上げるために1年目はとにかくガチガチに管理しまくったんです。メンバーのスケジュールやタスクを徹底的に把握し細かく指示をしました。
倉貫
ところが、新規事業なので新しい技術を生んだり、新しい顧客を開拓したり、世の中にない発想が必要なのですが、私が管理している限り新しい発想って出てこないんです。私が考えつかない限り何も生まれない。結局1年目は惨敗でした。全くうまく行きませんでした。
倉貫
そこで、管理をしないという方針に切り替えたんです。すると現場は私より技術に詳しいので、より積極的に新しい技術が取り入れられたり、マーケティングのメンバーであれば私よりもお客様の生の声を知っているので、顧客の開拓においてもそれを反映した新しいサービスモデルが生まれるようになりました。私が自分一人で考えて指示命令をするよりもたくさんの試行錯誤が生まれ、新規事業がうまくいくようになったんです。
セルフマネジメントはメンバーのモラルがない会社には難しい?
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セルフマネジメントは、メンバーのモラルがない会社には難しいと感じてしまうのですが。
倉貫
そうであれば、その会社はそもそも「なぜモラルのない人を採用したのか?」と思います。または、採用された後に、メンバーのモラルが下がってしまっているのでしょうか?
倉貫
ソニックガーデンでも新卒の採用をしていますが、若い彼らが社会にでた瞬間はみな希望に満ちていて、サボろうと思っている新卒社員は全然いません。自分の未来を輝かしいものにしたいと願っていますし、成長のために一生懸命な若い方がたくさんいらっしゃいます。それが採用された後にモラルが下がって行くというのであれば、それは個人と会社のどちらの責任なのか?むしろ、それは会社の責任なのではないかと思うんです。
倉貫
だから、うちの会社にはモラルあるメンバーがいないからセルフマネジメントができない、とおっしゃっている会社は一周回って自分の責任を問うているのだと思います。
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話を聞いていると、ソニックガーデンでは原因と結果が他社と真逆な印象を受けますね。多くの企業では在宅勤務にすれば生産性があがるといった思考をしますが、生産性を上げるためにはマネジメントだったり働き方の体制をしっかり作るのが先で、その結果として在宅勤務という働き方があるんですね。率直に、まずは何をすべきですか?
倉貫
リモートワークの前に、組織をどうしていくのかを考えることだと思います。その組織は何のためにあるのかをとことん突き詰めて考える。それって事業のためですよね。その事業でどんなことをするかをさらに突き詰めます。すると、トータルとして働き方にまで影響してきます。
倉貫
店頭販売に価値を置いた事業にリモートワークを導入しても本末転倒であるように、表面だけを変えてもうまく行かないので、まずは組織の在り方、そして事業そのものの見直しをすることが重要ではないでしょうか。
個々人で成果をみるよりチーム全体で成果をみる
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次に、目標管理はどうしているんですか?
倉貫
期ごとの目標は特にありません。個人ごとに自分がやりたいことを決めてそれを会社とすりあわせる対話の機会はもっています。ただ、それは期ごとに定期的に行うわけではなく、それぞれ人ごとにタイミングが違っています。
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ちなみに、そのすり合わせの内容には、いくつソフトウェアを作るだとか、売上はこのくらいだとか、数値目標のようなものはあるのですか?
倉貫
ありませんね。
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そうなんですか!?いい会社ですねーー!!(笑)
倉貫
いいかどうかはわからないですけど(笑)現時点ではそれが最適だと思っています。なので、将来的にはわからないですが、少なくとも、今は数値目標が重要だとは思っていません。
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そうすると社員の評価はどうしているんですか?
倉貫
評価はしませんね。
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え!評価しないんですか?たいていの日本企業は徐々に成果主義をとりいれる流れがきてますが、するとソニックガーデンでは成果反映分は給与に反映されないということですか?
倉貫
そうですね。ただ、成果が上がると会社全体で利益が上がるので、会社全体で賞与が上がります。
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そうなるとやっぱり疑問に思ってしまうんですが、頑張って業績に貢献した人とそうでない人で不公平を感じたりしないんでしょうか?
倉貫
そもそも頑張っているか、頑張っていないかという基準は人それぞれだと思います。むしろ頑張らないつもりで入社する人はいないので、基本的にはみんな頑張っていると思うんです。もし、頑張らなそうな人だなと思う場合には、採用のタイミングで止めるようにしています。
倉貫
それに、会社の業績はその人の頑張りの結果だけではないところもありますよね?そのときの運もあるし、市場環境もあるし、そのうえで個人を評価してしまうと、逆にめちゃくちゃ頑張ったのに運悪く会社の業績に現れなかった人はどう思うでしょう。やる気をなくしちゃいますよね?であれば、個々人で成果をみるよりは、チーム全体で成果をみるほうが健全なのではないかと思うんです。
勤怠管理はコンピューターを使った仕組みで代替
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日本には労働基準法があって、所定労働時間を超えたら残業代を払わないといけないなど必要な管理もあると思いますが、ソニックガーデンは労働時間管理はしているんですよね?
倉貫
はい、もちろんしています。残業代ももちろんでます。休日手当や深夜作業の手当なども出ます。完璧に日本の労働基準法には従って労務管理しています。
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在宅だと勤怠管理をどうするんだという問題にいまいろんな企業が直面していますよね。ソニックガーデンでは勤怠管理はどうしているんですか?そこも自己申告なのですか?
倉貫
人間がやることには必ずミスがあると考えているので、自己申告制にはしていません。社員を信用していないという意味ではなく、ミスしてしまっても安全なようにコンピューターを使った仕組みで代替しようというのが私たちの意図です。
倉貫
勤怠データは扱っているコンピューターでログを取る仕組みを採用しています。端末の稼働ログだけでなく、より細かく勤怠をとるためのアルゴリズムを構築していて、勤怠管理のベースはそのツールにより自動集計されています。社員はその自動集計された時間を元に後日、自身で漏れや追加がないかデータを整理できるようになっています。
倉貫
具体的には、ラクローというサービスを使っていて、打刻しなくても勤怠管理ができる仕組みです。
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それは外部のサプライヤーなどによって提供されているサービスですか?
倉貫
ソニックガーデン本体ではないのですが、子会社で自社開発したものになります。自社開発をした上で、お客様にも提供しています。
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わぁ!勤怠管理も自社開発されてるんですね。そのサービスを始めたのは、もともと販売目的に開発したんですか?それとも、社内での利用が目的だったんですか?
倉貫
まずは社内での利用が目的で必要に応じて開発していました。その過程で、それが本当に勤怠データとして有効かを含めて検証を行ったんです。
倉貫
ただ、コンピューター上で取ったログが勤怠データとして適切かどうかについては、労務裁判の判例を見るしかないんですね。でも、それだと不安なので経産省のグレーゾーン解消制度に申請をだしたところ、認可をもらうことができました。それを受けて、他社でも活用いただけるのではないかと思い、外販することにした経緯があります。
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ちなみにそのラクローを開発したのはいつですか?
倉貫
2017年くらいには稼働していました。ラクローとしてサービスの提供を開始したのは2019年です。
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なるほど。他の企業だと外圧がないとなかなか改革は進まないですが、ソニックガーデンの場合、あくまで社内の必要性に応じて改革を進めているのはとても健全な歩みだなと感心しました。
倉貫
ありがとうございます。
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生産性をあげるために、在宅勤務を検討するのではなく、まずは生産性をあげるための体制やチームづくりがとても重要なのだと改めて教えていただきました。本日はどうもありがとうございました。