ソニックガーデンの文化である「ふりかえり」を探求する特集シリーズ「成長する私たちのふりかえり」。
実践編となる今回の記事では、社内で弟子と呼ばれる若手プログラマを例にとり、ソニックガーデンで実際に行われているふりかえりの様子を紹介します。
KPT+親方からのフィードバック=ふりかえり
まずは、ソニックガーデンでのふりかえりの流れを説明します。
ソニックガーデンのふりかえりは、KPT(ケプト)のフォーマットに従ったふりかえりメモを準備する個人の作業から始まります。
「KPT(ケプト)」とは、「Keep(継続すること)」・「Problem(問題点)」・「Try(挑戦)」の3要素からなるふりかえりのフレームワークです。
ふりかえりミーティングでは、事前に用意したKPTの内容を共有した後、親方と呼ばれるベテランプログラマのマネージャーから適宜フィードバックをもらいます。
以上が、大まかな流れです。
ふりかえりの特徴は、頻度と量の多さにあり
ソニックガーデンで行われるふりかえりには、特徴的なポイントが2つあります。
1つ目は、ふりかえりミーティングを行う頻度の多さです。
パーソルホールディングスの2022年のレポートによると、1on1をする回数が「月1回未満である」と答えた会社は、全体の70%にも及びました。ソニックガーデンでは、親方と弟子とのふりかえりミーティングは、週に一回行われます。同レポートで、1on1の頻度を「週に一回程度」と答えた方は、全体のおおよそ7%でした。
この頻度の多さは、「小さく沢山変えていけば、いずれ大きな変化につながる」というソニックガーデンの考え方によるものです。
1年に1回だけしかふりかえりをしないとなると、単位が大きすぎて、変えようと思ってもなかなか変えられません。ソニックガーデンではふりかえりミーティングの頻度を高めることで、小さな改善をたくさん行える仕組みにしているのです。
2つ目の特徴は、ふりかえる量の多さです。
実際、入社1年目、2年目の呂と新田見が、親方である松村とふりかえりした際のメモが以下の画像になります。一部情報は隠していますが、実際の文章をそのまま羅列しました。
個人差はありますが、総じてソニックガーデンのふりかえりは相当な文量になることが多いです。
ふりかえる量の多さに関しても、裏側にはソニックガーデン特有の考え方が隠れています。それは、「成長に、ふりかえりは重要だ」という共通認識です。そんな認識があるからこそ、弟子も存分に事前準備をしますし、親方も存分にフィードバックをします。事前に準備した長いふりかえりの文章に、親方からのフィードバックが書き足され、結果として文章量が多くなっていくのです。
もちろん、ただ悪戯に文章量を増やしているわけではありません。
事前準備とフィードバック、双方の段階で大事にされているのは、一つ一つのKeepやProblemに対しての「深掘り」です。
ふりかえりと「深掘り」はセットで行う
実際のふりかえりで出てきたProblemを元に、ソニックガーデン王道の深掘りパターンを紹介します。
上記のように、ソニックガーデンでは弟子があげたProblemに対して、「なぜ問題が起きてしまったのか」という点を深掘りすることが多いです。それは、原因を知ることで、より問題の解決に有効なTryを出すことにつながるからです。
例にはありませんが、Keepの場合も、「なぜ今回出来たのか」と原因を深掘りします。良かったことであっても理由を深掘りすることで、今後も再現できるKeepに落とし込むことができるからです。
また、ソニックガーデンではTryが「仕組み化できているか?」という点もよく見られます。
上記の画像ではじめにTryとして出された「遅れないように時計を見る」だと、意識の話になってしまっています。意識を変えるのは、実はとても難しいことです。
それに対して、後から出たTryである「カレンダーの通知をONにする」は、行動の話になっています。かつ、システムで対応しているので、自分がどんな状態であれ自動で行われるものです。このような、意識に寄らないTryを出すことを、ソニックガーデンでは仕組み化と呼んでいます。
このように、ふりかえりと「深掘り」を必ずセットで行うことも、ソニックガーデンのふりかえりの特徴的な点です。
「熟練した」プログラマが見るから、最短距離で成長できる
これまでソニックガーデンのふりかえりの特徴を話して来ましたが、実はふりかえりを見る親方にも、ソニックガーデンならではの特徴があります。それは、親方は必ず、ソニックガーデンで力を磨き上げた熟練のベテランプログラマであるという点です。
一般的に、エースとして会社を牽引しているベテランプログラマは、システム開発で忙しく、若手プログラマの仕事を見てくれる機会は滅多にないでしょう。しかし、そんなベテランプログラマが親方として若手プログラマのふりかえりに時間を割くのには2つの理由があります。
理由の1つは、腕の良いプログラマである親方は、弟子の目指すべき姿として考えられているという点です。これまで歩んできた成長のプロセスを一番よく知っているのは親方本人ですから、「どうしたら自分のようになれるのか」を弟子に教える適任者も親方ということになります。
また、ここでふりかえりの事例をもう一つ紹介します。以下は、弟子の新田見と親方である松村が、2024年4月11日に行った実際のふりかえりを、当人たちへのインタビューを元に簡略化したものです。
親方はプログラマとして長年腕を磨いていますから、弟子が悩んだことも当然経験していますし、どうすれば良いかも分かっています。熟練プログラマが直接ふりかえりを見て、道を示していくからこそ、弟子は闇雲な試行錯誤なく、プログラマとしての成長への道をひたむきに走ることができるのです。
また理由の2つ目は、親方はふりかえりも熟練しているという点です。
ソニックガーデンには現在5人の親方がいますが、親方同士で、弟子のふりかえりのふりかえりを、定期的に行っています。具体的には、「これは教えた方がいい」「これは自分で考えてもらった方がいい」などの線引きも、親方同士で考え合い、決めています。もちろん、個人として、日々日常的にふりかえりも行っています。
日々ふりかえりを行う技術力の高いベテランプログラマが親方となり、毎週ふりかえりを行っていくからこそ、ソニックガーデンの若手プログラマである弟子たちは、着実なスピードで成長をしていくのです。
【インタビュー】成長につながるから、成果につながる
では、そんなふりかえりを一年、二年と行ってきた弟子は、週1回親方と行うふりかえりに対してどんな印象を持っているのでしょうか。
松村親方の元で仕事をしている、呂と新田見に話を聞いてみました。
毎週出てくるProblemの原因として、めんどくさがり屋な自分の側面が関わっていたりするので、そういう自分の性質を加味してTryを考えられるのは良いなと思っています。
他には、自分の成長を客観的に肯定してもらえることも良いと思う点です。以前と同じ課題が出てきた時に自分は成長していないと感じて焦ってしまいますが、親方プログラマ目線で「成長の螺旋の中で一段上がっている」と伝えられると、一歩引いた目線で、割り切って、課題を見るきっかけになります。諸先輩のことを見ていて、かつて自分と同じ道を辿っているからの意見だと思い、ありがたいなと思いますね。
実は、ソニックガーデンのふりかえりには、一つ面白い習慣があります。それは、ふりかえりミーティングの最初に、弟子から親方に「ふりかえりをしてください」と言い、終わった後は同じく弟子から親方に「ありがとうございます」と伝えることです。ふりかえりを通じての成長実感があるからこその言葉なのだろうと、今回のインタビューを通じて感じました。
しかし、若手の成長につながるとはいっても、親方を務めるベテランプログラマの負担はかなりのものです。先ほど述べた通り、親方同士でのふりかえりもありますし、朝会や夕会も行っています。実際に、親方である松村にインタビューし、ふりかえりについてどう考えているかを聞いてみました。
ですが、今まで自分が関わり成長してきた人と自分との成果を合わせたら、1人の限界値を超えた価値提供ができると思ってるんですよね。実際、現状そうなっています。
成長を支援することが、同じ時間でより多くのお客様の課題をプログラミングで解決することに繋がるという実感があり、だからこそ、自分の技術スキルを磨きつつも、若手のプログラマの育成に力を入れているんです。
ふりかえりをしていく先にある風景
松村の話でも分かる通り、ソニックガーデンでは個々のプログラマの成長を、お客様への価値に繋がると考えるからこそ大切にしています。親方・弟子という制度も、若手プログラマの成長に繋がることを考えての仕組みです。しかし実は、親方含めソニックガーデンの第一線で活躍するベテランプログラマは、毎週どころか、特定のふりかえりの時間の確保はしていません。もちろん、ふりかえりを見てくれる人もいませんし、先ほどお見せしたような長文のふりかえりシートを書くこともありません。
しかしそれは、ふりかえりをしなくなったわけでも、成長しなくなったわけでもありません。むしろ、若手より頻度高く「深い」ふりかえりをしているのがベテランプログラマたちなのです。
一体どういうことでしょうか?キーワードは、「習慣化」です。
実はふりかえりが上手になると、問題が起きた時などにすぐその場でふりかえりをする習慣がつき、わざわざふりかえりの時間を取らずとも、日々仕事をするたびふりかえりをするようになっていきます。また、自分の行動に対しての問題点や良かった点の客観視や言語化が難なくでき、誰の力を借りずとも、自分で決めたビジョンに向けて自分を熟達させ続けることができるゾーンに入ります。
親方は、「常時ふりかえり」を行い、プログラマとして熟達を続ける先人なのです。
弟子たちは、「常時ふりかえり」、つまりふりかえりを習慣化させることを目指して、親方の手を借りている段階にいます。コードレビューなどと同様に、ふりかえりもその先を行くプロにレビューをもらった方が、より上達が早まるのは想像に難くないでしょう。
「理論編」で解説しているように、ふりかえりは、再現性のない仕事で成果を出す「いいプログラマ」になるためには必要不可欠な習慣です。
もし、「いいプログラマ」の道を極めることに興味が湧いた方は、ぜひ今日からでも、できるところからふりかえりを始めてみてください。ふりかえりを続けていった先に、「遊ぶように働く」を実践する、ソニックガーデンのプログラマたちの背中が見えてくるはずです。