社員が増えてもバックオフィス業務のコストが増えないセルフサービス化でDX

ソニックガーデン副社長の藤原です。
私は創業以来、バックオフィス業務を担当しています。現在のソニックガーデンは、50人規模の組織へ成長しましたが、新たにバックオフィス専任の社員を置くことなく、スムーズに業務が進んでいます。バックオフィス業務の人件費も、月間で10万円ほど。ちょっと、おどろきですよね。
そもそもバックオフィス業務には、組織の成長に伴って業務量とコストが増加する課題があります。ソニックガーデンも、一時はこの課題に悩まされました。
では、なぜソニックガーデンはバックオフィス業務のコスト削減ができたのか。 それは、バックオフィス業務のコストを社員数に比例させない、バックオフィス業務のセルフサービス化の実現にあります。
では、具体的な取り組みをご紹介します。
[こんな人にオススメの記事です]
・ベンチャー、中小企業の経営者
・バックオフィス担当者
※この記事は、FCCフォーラム2021(株式会社タナベ経営主催)にて、藤原が登壇したセッション『バックオフィスDX 全社員フルリモートワークを実現するデジタルを活用した「管理」の無い経営』の内容を編集したものです。
バックオフィス業務を一極集中型にすると、コストが増えていく
はじめに、バックオフィス業務の課題を振り返ります。
一般的なバックオフィスの業務は、経理や法務といった専門分野ごとに役割をわけ、それぞれ担当者を置いています。この仕組みを、一極集中型と定義してみます。
社員数が少ないうちのバックオフィス業務は、一極集中型で問題なく回ります。しかし、社員や業務量が増えてくると、バックオフィス業務に必要な人数や時間などのコストも増えていく課題が起きてきます。
さらに、バックオフィス業務の各担当者が業務内容を把握しきれなくなると、現場との確認頻度が増し、コミュニケーションコストも上がります。
たとえば、まだ案件数も社員数も少なかったソニックガーデン創業のころ、私はすべての請求情報を把握できていました。
ところが、事業が成長し、請求数が増えるにつれて、「請求の担当が誰で、請求金額がいくらか?」が分からなくなっていったのです。そして、請求の時期が来るたびに、担当者に確認するコミュニケーションコストが増えていきました。
これらの課題を解決する方法に、ペーパーレス化やクラウドツールの導入が挙げられます。たしかに、紙を使う業務をデジタル化すれば、事務や経理担当の手間は多少省けるでしょう。しかし、一極集中型を続ける限り、社員数に比例してバックオフィス担当者の業務や負担が増える構造は変わりません。
バックオフィス業務のセルフサービス化
そこでソニックガーデンでは、バックオフィス業務のクラウド化を進めながら、一極集中型からの脱却に取り組みました。
それが、社員1人ひとりが自分でバックオフィス業務を行う「バックオフィス業務のセルフサービス化」です。
経費申請・領収書はアプリを使って各自で申請
では、「バックオフィス業務のセルフサービス化」を詳しくご紹介します。
まずは経費精算です。 オフィスがあった2016年頃までは、私も出社し、社員の領収書を回収して経費精算を行っていました。
その方法から、Googleスプレッドシートを使って、各自で申請する形に変えています。
ポイントは、スプレッドシートを社員なら誰でも見れるオープンな状態にしたことです。全員の目に触れるとなると、人間の良心が働き、不要な経費は使わなくなるという副産物もあるように感じています。
また、物理的な領収書は各自で専用のケースに入れてもらいます。こうして、私の机の上にみんなの領収書が散らばることもなくなりました。
全社員がリモートワークになった今は、一連のプロセスをWebアプリ化し、領収書はスマホで撮影したデータをWebアプリにアップロードしています。領収書は一定量が貯まったら、オフィスへ郵送してもらう運用です。
Webアプリには、税理士さん用に、利用する会計ソフトに適したデータがダウンロードできる機能も備わっています。
請求書は担当者をアサインし、システムから自動で通知・送付
続いては、請求書の発行です。 創業当初から経理専用の請求システムを導入していましたが、バックオフィス業務のセルフサービス化に伴い、独自のシステム「SUZY」を開発しました。
SUZYの特徴は、請求書ごとに案件の担当者と内容をチェックする人を設定できることです。
期日になると、自動で請求書の内容確認依頼が各担当者へ通知されます。請求書のドラフトは、システムが自動で作成します。担当者は、内容を見て必要に応じて修正し「確認済み」のボタンを押すだけで、請求書発行の作業が完了します。
そして設定された送付日には、自動で請求書が送信されます。SUZYのおかげで、手作業による請求書の作成や送付の手間がなくなりました。なお、紙の対応が必要な一部の請求書は事務スタッフが手作業で対応しています。
SUZYは2016年に導入しましたが、売り上げが当時から3〜4倍になった現在も、私や事務スタッフの請求書に対する負荷は1つも変わっていません。セルフサービス化の効果ですね。
契約書は各自がテンプレートから書面を作成・送付
同様に、契約書の作成と送付もシステム化しました。契約書も単純にペーパーレスにしたのでなく、いくつかのテンプレートの中から、現場担当者自身が必要な契約書を選んで作成し、送るセルフサービス化が重要なポイントです。
一般的な契約書締結の流れでは、現場担当者からの依頼をもとに法務担当が契約書を作成しますよね。そしてお互いに内容を確認し、現場担当者が契約先へ連絡します。
ソニックガーデンでは、現場担当者自身が契約書を作成する仕組みを作りました。担当者は、契約書を作成し、承認者(私や代表の倉貫)に承認依頼を送るだけ。これによって、業務はとても楽になりました。なお契約締結のプロセスは、DocuSignを導入しペーパーレスを実現しています。
マイページから、さまざまな事務手続きをセルフサービスで
他にも、さまざまな業務や手続きをセルフサービス化しています。これらに伴う各システムは、社内ポータルサイトにまとめ、社員はマイページから必要な手続きを行います。
たとえば、年に1度の健康診断。時期がきたら、社内のシステムから該当社員へ自動的にお知らせが届くようになっています。社員は健康診断を受けたら、自分のマイページで手続きをして完了です。特定の人による管理やチェックは不要です。さらにシステムが進捗状況を自動で検知し、期日が過ぎている人にはリマインドを送る仕組みになっています。
業務担当の負担が減ると同時に、社員も自発的になりやすい構造に
このようにして、ソニックガーデンはバックオフィス業務のセルフサービス化を進めてきました。
はじめにお話しましたが、社員が50名を超えた今でも、バックオフィスのコストは月10万円ほどで、創業当時とほとんど変わっていません。バックオフィス専任社員は置かず、アウトソースでお願いしています。
さらに、バックオフィス業務のセルフサービス化によって、社員のマインドも変わりました。
実は、一極集中型のバックオフィス業務には、「負の感情」が起こりやすいんです。
経理担当者には、期日までに経費精算を処理したり、請求書を発行しなければ、という責任があります。また「領収書がないですよ」など、社員に指示する役割も担うため、非常に不満を持ちやすいのです。対する指示を受ける側の社員も受動的になってしまい、意図せぬ対立構造が生まれてしまいます。
バックオフィス業務がセルフサービスになると、そのような対立構造は変わります。基本的にはシステムが業務の責任を負い、指示もシステムの通知で行われるので、業務担当の負担が減ると同時に、社員も自発的になりやすい構造になるのです。
自発的にシステムを使うようになると、現場からはバックオフィス業務担当に対して「こうなったらもっと便利では?」と、積極的にシステム改善の要望を挙げるようになります。
システムが良くなれば、現場からは感謝の気持ちが生まれやすくなりますし、業務担当者も嬉しいし、もっとシステムを良くしたいと前向きになれる。感謝の気持ちを受け渡しできる、楽しい業務改善プロセスが生まれます。
DXの目的は、業務の効率化・管理ではなく業務ハックである
ソニックガーデンでは、業務に合わせてシステムを改善していくことを業務ハックと呼んでいます。一連のバックオフィス業務のセルフサービス化も、業務ハックです。
つまりバックオフィスのDXが目指すゴールとは、業務の効率化やペーパーレスではなく、業務担当の役割が管理から業務ハックに変わり、自分たちも含めたみんなが働きやすく嬉しい仕組みを作ること、になるのではないでしょうか。