まるで筋トレ!?「研修で人は変わらない」に立ち向かうAI×動画の学習支援サービス「マメトレ」開発秘話


スキルアップや資格取得、人材育成のために行われる企業内研修。
しかし「受講中は理解できていたのに、時間が経つと忘れてしまった」という経験、ありませんか?また「資格を取ろうと頑張ってみたけれど、勉強が続かない」という悩みも多いですよね。 もしかしたら、学習方法に課題があるのかもしれません。

重要なポイントを中心に、短期間で集中して学ぶという方法に疑問を抱いたのは、
株式会社アイ・スリーの志賀澄人(しが すみひと)さん。

志賀さんは、学習を「新しいものごとを知ることではなく、新しい習慣を手に入れることである」と再定義。学びの習慣化を目的としたオンラインの学習支援サービスマメトレを企画・運営しています。

今回のソニックガーデンお客様事例は、このマメトレの開発についてご紹介します。

脳科学と行動心理学から生まれたマメトレ

まずは、マメトレのサービスを説明しましょう。
マメトレは、ポイントを押さえて取り組む短期集中型学習ではなく、慣れるまで時間をかけて覚えていくという、長期定着型学習を基本としています。「動画を見てドリルを解く」を1回として、1日3回、毎日取り組むという仕組みです。

脳科学をもとにしたアルゴリズムが出題を行うため、過去に解いた問題や間違えた問題も含めて効率よく復習できることがポイント。ウェブブラウザ版とアプリ版(iOS、Android)があり、いつでもどこでも学習が可能です。

おもに企業研修の一環として導入されることが多く、5名ほどのチームを組み、メンバーの学習進度に応じて、チーム全体のポイントが上下するというゲーミフィケーションの機能が取り入れられています。

現在はオラクルが認定するJavaプログラマ向けの資格・OCJ-P Silverの学習講座の他、英語やビジネスマナーの講座などを配信中。新人研修で、マメトレのOCJ-P Silver講座を導入した企業では、36人中35人が初めての受験で合格したという実績もあり、正式なサービスインから800名近い方が利用しています。

熱血研修講師に突きつけられた、「研修に意味はない」という現実

マメトレのサービスを企画・運営する株式会社アイ・スリーの志賀さんは、『徹底攻略Java SE 8 Silver問題集』(株式会社ソキウス・ジャパン)など多数の著作を持つ研修講師として、多くの企業研修を担当してきました。

熱意ある志賀さんの講義は企業からの評判も高く、「受講者のスキルを上げることは、会社組織をより良く変えることにつながる」という志を持ち、講師業に誇りを持っていました。 しかし、ある衝撃的な事実に気づいてしまうのです。
それは、研修で学んだスキルが実際の現場では活用されていないという現実でした。

プログラマのキャリアも持つ、株式会社アイ・スリー 代表取締役 志賀澄人さん

志賀の顔志賀
研修で学んだことが現場で生かせない、その背景には組織の課題がありました。大企業になればなるほど、時代の変化に対応できず、変わっていくことを恐れてしまう人たちが一定数います。彼らの姿勢は、研修を受け頑張りたいと励む人たちを阻害してしまうんですね。

個人のやる気を後押ししただけでは、組織は変わらない。何なら、変えられないことで失意に折れてしまう人を増やしてしまう。従来の研修では、変えられないだけでなく問題をより複雑化させてしまう可能性があることに気がついてしまったんです。

これまでも研修を通し、IT業界・とくにSIer企業は膠着状態であると感じていた志賀さんでしたが、まさか自分自身が組織の変わらないサイクルに加担していたとは…と、大きくショックを受けます。しかし、他のアプローチで考え方を変えることはできないだろうかと模索し始めるのです。

そんなとき、やはり組織に課題を抱える金融系クライアントの研修を担当することになりました。

志賀の顔志賀
彼らは、知らない言葉への拒否反応が強かったのです。そこで私は、時間をかけて同じ話をしてみるという手法にチャレンジしてみました。すると、次第に言葉に慣れ、言葉を使って会話をするようになったんです。彼らの拒否感が薄れていき、スイッチが切り替わるように意識が変わる瞬間がありました。

この体験で、思考を変えるには方法論や論理力ではなく、慣れることが重要だと気づいたんです。

この「長期に渡って定着をさせていくと、変化する」という気づきが、のちのマメトレの芽となりました。そこで志賀さんは勤めていた大手企業を退職。慣れるための仕掛けをシステム化し、サービスとして社会へ提供するべく株式会社アイ・スリーを設立しました。

前例のないマメトレのシステムは、【アジャイル開発が最適】

学習の定義を「学ぶ」から「慣れる」へと変えていくマメトレは、従来にない学習システムです。ゆえに開発は、短期間で小規模の開発を行いながら改善を繰り返していくアジャイル開発が最適だと志賀さんは考えていました。

さらに技術支援だけでなく、ビジネスについても相談できるパートナーと取り組みたいと思い、ソニックガーデンへ開発を依頼します。しかしサービスの新しさから、開発までに半年近くも話し合いが続きました。

マメトレ開発担当者のひとり、ソニックガーデンのプログラマ・西見 公宏(にしみ まさひろ)は、次のような観点からアドバイスをしたと話します。

担当プログラマ・西見 公宏。マメトレは筋トレのようと話す。

西見の顔西見
研修講師としての志賀さんの視点に対し、僕らはビジネスの広がりやマーケティングの視点からサービスの再定義を行いました。やはり研修をオンラインに置き換えるだけでなく、汎用的な形にしないとサービスとしてスケールしないからです。

お互い本気でディスカッションできるパートナーシップを組んで、納得できるサービスを作っていくのがソニックガーデンのスタイル。時間はかかってしまいましたが、とことんお付き合いしましたね。

ビジネスに直結しない余計な機能は開発しない。クライアント・ユーザー・プログラマが三方よしの幸せなシステムを開発するというソニックガーデンのポリシーは、志賀さんが抱えていた思いにも重なる部分がありました。「企業研修は、参加率や修了率の高さを目的としがちです」と志賀さん。しかし、研修を終えること、資格を取得することがゴールではありません。その後も継続的に学びを続けたくなるマメトレは、企業研修の概念を変えるものでもあるのです。

システムで、学習の厳しさとやる気をマネジメントする

そして開発がスタートし、2016年12月にリリースしたマメトレ。
コアバリューである習慣化の機能にフォーカスをあてて開発を行い、Javaの資格取得講座がマメトレ第1号の講座となりました。そして、マメトレに興味を持った企業の協力もあり、100名がテストに参加します。機能の開発をしながら講座用のコンテンツも制作するというタイトな状況でしたが、ほぼ全員が4ヶ月の講座を修了しました。 志賀さんによると、Eラーニングの受講修了率は低く、業務上必要な講座であっても、修了率50%を超えれば良いほうだと考えるそう。しかしマメトレのテストでは、修了率ほぼ100%といってよい数字が出たのです。

志賀の顔志賀
修了後のアンケートによると、講座をスタートした直後は、受講者の60%がマメトレのシステムに拒否感を感じていました。しかし学習に慣れを感じ始める1ヶ月後になると、98%が好印象を持つようになっていたんです。この結果に人事担当者も満足し、マメトレの長期定着型学習は資格取得のための確実な方法として受け入れられたと実感しました。

初めのうち60%の受講者が感じていたという、マメトレへの拒否感。これは、学習を習慣化するための仕組みが関係しています。たとえば、ドリルは正解しないと完了しませんし、1日3回の課題を終えないと次のステップへ進むことができません。さらに学習を止めてしまうと、最終的にはチーム全員が講座を受けられなくなってしまうのです!

なかなかにハードな仕組みですが、筋トレのように適切な負荷をかけたトレーニングは成果に繋がるもの。1ヶ月後にはほぼ全員が前向きに学習している結果をみると、その効果を感じられます。

西見の顔西見
アメとムチではないですが、厳しさと応援というバランスをシステムに取り入れました。受講者のやる気に働きかける連続正解時のコンボ表示や、チームメンバーの様子が分かるみんなの様子機能などは、まさにアメの要素。フリーコメントやアイコンなどで学習に対する意欲の表示ができ、チームで励まし合いながら学習をすすめることができます。

長く継続していくサービスであるために、開発ができること

「習慣化する仕組みをシステム化し、多くの人の学習を変える」という、描いていたサービスが実現した志賀さん。マメトレは運用フェーズへと入り、英語を扱う「ぷれいごオンライン」など新しい講座も増えました。

現在の開発は、コンテンツ登録などバックエンドのシステム改善が中心となっています。受講者・コンテンツ登録者・管理者とユーザーが増えるにつれて、機能追加の要件は増えていく一方。しかし、マメトレの開発をメインで担当するソニックガーデンのプログラマ秋田明は、次のような視点でシステムの改善に取り組んでいます。

マメトレの担当プログラマ秋田明は、開発時にシンプルなコードを心がけている。

秋田の顔秋田
まず志賀さんから機能の提案があったとき、なぜこれが欲しいのかの目的を考えます。そして他に方法はないか、今考えている方法がベストなのかと確認する。
このくり返しで、次に対応するべきことが見えてくるんです。ビジネスの変化に応じた開発は複雑になるので、可能な限りシンプルに、長期間運用できるように考えて開発しています。

システムは汎用的に使えるよう開発しているとも話す秋田。たとえば、ある講座のために取り入れた機能であっても、他の講座でも使えるように設計を工夫しています。

秋田の顔秋田
「この開発を行うことで一時的に便利になりますが、次に開発をするときは今よりも労力がかかります…」とならないよう、サービスの先を考えた視点は外せないです。
なぜ作るのか?を納得するまで聞いて開発するのが大事。そこまで話を聞いて納得できると、この機能はここまでつながっていて、次はこんな風に展開できるなとイメージが沸くので、作り方が変わってくるんです。

志賀さんが初めてマメトレの相談をしたときと変わらず、何度も話し合いを重ねるソニックガーデンのスタイル。志賀さんも「話し合いをすることで、新しい機能が必要だと思い込んでいたことに気づくんです」と、アイディアの先にある本当に必要なことを見つけていくコミュニケーションに信頼を寄せています。

教える・教わるの時間的コストを下げる、マメトレのプラットフォーム構想

現在マメトレは、学習のプラットフォームを目指しビジネスを展開しています。
eラーニングというと、システムとコンテンツがセットになったパッケージ商品を思い浮かべる方も多いと思いますが、今後は自社独自の業務内容やノウハウを教えるために使えるようにシステムだけをご提供しようと考えています。

これは講座を持つ限られたコンテンツホルダーと協業するだけではなく、企業が持つノウハウをコンテンツ化し、社内の研修用途にマメトレを広く活用してもらおうという構想です。海外展開も視野に入れ、とくに来日前の研修に活用するなどを想定しています。 「マメトレを、日本中の企業の人材育成システムにしていくことが、第1目標です」と意欲を見せる志賀さん。ビジネスの方向性に合わせて、最適なサービスや機能が届けられるよう、ソニックガーデンも柔軟に先を見据えた開発支援を行っていきます。

取材したお客様
株式会社アイ・スリー様 http://www.ix3.co.jp/
サービス: マメトレ http://www.mame.training/

[取材・構成・執筆/マチコマキ]

この記事を共有する