グアテマラの先生に安定した雇用の創出を。「想い」を持ったベンチャー企業が開発会社に求めるもの:スパニッシモ【後編】
今回は、オンラインスペイン語学習サービス「スパニッシモ」を展開されている特定非営利活動法人SPANISIMO JAPANから有村拓朗さんをお迎えしました。
世界中のスペイン語学習者から、アクセントがクリアで美しく、ゆっくりと話すため高い人気を得ているグアテマラの先生と、Skypeを通じて一対一でスペイン語を学べるのが「スパニッシモ」です。起業を決意するに至った熱い想いと、リニューアルの経緯などを伺いました。
日本人は、いい意味でも悪い意味でも、製品に対して世界で一番うるさい
倉貫
「スパニッシモ」というサービスは日本向けなのか、海外向けなのか、ターゲット層はどの辺りですか?
有村
僕たちが最初に始めたのは日本向けだったんですね。理由はチーム全員が日本人であり、日本市場のことが一番分かっているであろうと思ったからです。あとは、日本人はやっぱり世界で一番うるさい、いい意味でも悪い意味でも製品に対してものすごくうるさい人たちなので、質が高いものでなくては生き残れない。だから、日本で生き残れたら、絶対どこでも生き残れるんじゃないかと思ったからですね。
倉貫
まずは、日本でスペイン語を学びたい方をターゲットにしたと。
有村
はい。でも少しずつ広げていくつもりです。今は自分たちの限られたリソースの中だと、どうしても今日本に目は向きがちなんですけど、アメリカにもいきたいなとすごく思っています。
倉貫
今は英語のそういったオンライン勉強サービスはたくさんあると思いますが、スペイン語のサービスって他にはあるんですか?
有村
あります。競合で行くと、細かいのも数えると15社から20社ぐらいは。
グアテマラの先生たちと一緒に教材を開発できる「開発力」が強み
倉貫
競合他社もいる中で、スパニッシモさんの他と違うという部分はどういうところですか?
有村
グアテマラの先生たちと一緒に教材を開発できる開発力を持っているという点が一番大きな強みかなと思います。僕たちはオンラインのスペイン語業界では初めて、京都大学とか、拓殖大学に単位認定科目として授業を提供しているんです。それができている背景は、その大学が使っている教科書に連動した形でのオーラル教材を僕たち側で開発することができて、その開発した内容が大学の教授たちから見ても評価されているからです。また、グアテマラの先生たちの能力が高いことも教材を開発できる要因です。ベンチャーならではの機動性を活かし、柔軟に自分たち自身のサービスの中身を改善していくことができる、というのが一番強いのかなと思います。
倉貫
教材をアカデミックなところからも認められて、自分たち自身もその過程で学んできたノウハウを持っている。そこはスパニッシモさんのコアコンピタンスですね。
有村
そうですね。まず、それを可能にしている先生たちを僕たちが持っていることが、一番大きな強みかなと思います。吉川はマースジャパンというところで人事や営業といった仕事に携わっていたのですが、マースジャパンやリクルートで培ってきた、人をどうやって採用するかとか、どうやって組織に組み込んでいくかとか、どういうところに気を付けて最初に人を採用するかとか、その辺をすごく話し合って選んできたということが大きいかなと思っています。
倉貫
ただ人を集めただけじゃないよということですね。
自分たちとして開発の力を持たなきゃいけないけれど、雇うほどのお金はないという状態
倉貫
2012年1月にスタートして、ソニックガーデンに来て頂いたのはいつぐらいでしたか?
有村
去年ですね、2014年の頭。
倉貫
2年ほどサービスを展開されて、何がきっかけで、ソニックガーデンに来て頂いたのでしょうか?
有村
僕たち自身は、その年から本格的にアメリカに進出しようと思っていたんですけれども、やりたいことが色々ある中で開発力が足りなくなってきたというのが一番大きな理由です。創業当時に手伝ってくれていたウェブ開発のメンバーも、もともとはプロボノとしてやってくれていたので、彼自身の力をずっと借り続けるわけにもいかないし、彼は彼自身の会社をやっているので、やっぱり自分たちとして開発の力を持たなきゃいけないと。でも、雇うほどのお金はないという状態で(笑)まさにどうしたらいいのかと思っていたときに、トライフ(*1)の宮下さんから、「うちはソニックガーデンという会社に作ってもらっている」という話を聞いたことがきっかけですね。
*1 株式会社トライフ様 納品のない受託開発導入事例
倉貫
そのプロボノさんにずっと頼り続けるのもちょっと悪いけれども、今後英語版をつくっていったり、世界展開をしていくのに、システムはやっぱり変えていかなきゃいけないという段階だったんですね。
有村
変えていかなきゃいけないし、できるだけ計画的にやっていきたい。やっぱりプロボノでやってもらっている方々はとてもありがたいんですけど、あまり詰めれないんですね。
倉貫
できているときと、できてないときが、やっぱりあるんですね。
有村
そうですね。ですがこちらとしてもお金を払っているわけではないので、「なんでやれてないの?」とは言えないんですね。
倉貫
そうですよね(笑)「ありがとう」しか言えないですよね。
アイデアはあるんだけど、ネット上で形にできない人たちにフィットするようにつくられていた
有村
本当に「これまでやってくれてありがとう」としか言えないです。でも、組織として、どんどん大きくなっていって、「こうしたい、ああしたい」という思いがある中で、自分の思いを形にしにくい状態をずっと続けていくのが苦痛だったんですよね。昔からなんでも自分でつくるのが好きで、家具やアクセサリーをつくったりとか、アイデアを形にするのはできるはずなのに、唯一、僕がプログラムができないおかげで、アイデアを形にできていない。それを勉強したら、もしかしたらできるのかもしれないけど、そんな時間も今はない。という中で、やっぱりプロフェッショナルの力を借りなきゃダメだと思ったんです。
倉貫
自分たちで雇うのではなくて、ソニックガーデンに相談に来て頂いた理由は?
有村
それは、まさにソニックガーデンさん自身が提供されている環境のためですね。それこそ収支が厳しくなったら、保守メンテだけに専念して開発はいったん止めることもできるなんて、アイデアはあるんだけど、ネット上で形にできない人たちにとっては、たぶんすごく都合がいいシステムだと思います(笑)だから、そこはすごくフィットする。フィットするようにつくられていたからです。まさに自分たちもそういうニーズがあったということですね。
倉貫
来ていただいて、最初は藤原と話してもらったんですよね。そのときは、トライフの宮下さんとお知り合いだったので、大体どういうふうに進めるかはもうご存知だった?
有村
いえ、宮下からは「必要なときは集中して開発するときもあるし、そうじゃないときはお休みもできるし、結構柔軟に対応できるよ。金額も他と比べても良心的だし」と聞いていただけでした。
システム側からアドバイスをもらえる、もらったものが仕様に落ちる、落ちて実装してもらえる
倉貫
では弊社の藤原から実際の進め方を聞いてみて、どう感じましたか?
有村
僕たちからすると、別に納期がガチガチに決まってないとダメなこともなかったので、「納品のない受託開発」の考え方にはすごく納得したし、柔軟に開発できるモデルは非常に魅力的だと思いましたね。
倉貫
実際に、社内に社員としてエンジニアがいるのか、ソニックガーデンの西見が顧問プログラマという形でいるのかでは、良い点悪い点、違いなどありますか?
有村
作りたい製品に対して着実に前に進んでいくという意味ではすごく助かっているし、すごくいいですよね。でもやっぱり弊社内で唯一、他社と連携しているのは今ソニックガーデンさんとだけなんです。あとはスタッフもグアテマラにいるので、やっぱりチームとして働くのであれば、本当は毎日一緒に働いていたいという気持ちは強いですね。でも、自分たちがやりたいことにシステム側からアドバイスをもらえる、もらったものが仕様に落ちる、落ちて実装してもらえるという、この一連のプロセスができることはすごく助かっています。
倉貫
今はメンバー全員が、グアテマラですか?
有村
全員グアテマラです。日本にスタッフはいるんですけど、必要に応じて手伝ってもらうスタッフなので。
インターネット環境はすごく脆弱で、雨が降ったらスピードが落ちる
倉貫
グアテマラと日本で、打ち合わせをしながら開発を?
有村
そうですね。もうずっと前からSkypeでやっています。
倉貫
どうですか?普通にやれていますか?
有村
そうですね。最初の3カ月は、グアテマラとサンフランシスコと日本でやっていたってことを考えると、今は時差が1つだけなので。今は打ち合わせも定例でやっていますし、何も問題はないですね。
倉貫
グアテマラは、インターネット環境は十分なんですか?
有村
すごく脆弱です。僕たちが今、引いている回線って、下りが最大10MBなんですよね。それを今、複数引いてやっている状態なんですけど、言っても10MBみたいな(笑)しかも、それって理論値だから、たぶん半分以下しか出てない感じなんですよね。という中でやっているので、まだまだ十分だとは言えない。
西見
確か以前、「雨が降っているので、ちょっとスピード落ちます」みたいなのもありましたよね。
有村
そうそう(笑)雨が降ってスピードが落ちることもよくありますし、雨が降ってネットが落ちることもあれば、雨が降って停電することもよくあるんです。私たちが住んでいる市、例えば神戸だったら神戸市が電力会社にお金を払って、その電力会社がその市に対して電気を供給しているのに、市が金を払ってないから止められるみたいなこともあるんですよ。
倉貫
本当ですか(笑)
安定的にグアテマラの先生たちに仕事を渡し、お金を払いたい
倉貫
日本には時折、帰って来られるんですか?
有村
そうですね。役割としては、僕と吉川では大きく2つに分けていて、僕は営業とか広報とかなどの外向けの活動をやっていて。吉川は人の採用とか育成とか、あとは教材の開発をやっています。僕が日本に帰ってくるときは、日本に営業しに来たりとかですね。でも、基本的にはSkypeで営業はできちゃうんですけど、やっぱりちゃんと面と向かって会いに行ったりとかって大事なので、そういうために戻ってきたりします。
倉貫
営業先というのは、スパニッシモさんのビジネスとしては、どういうところが他にステークホルダーでいらっしゃるんですか?
有村
今だと商社さんとか、メーカーさんとかですね。
倉貫
商社さん、メーカーさんとは、大口の顧客として使っていただくっていう感じですか?
有村
いえ、すごく小さいですね。でも、法人契約を結ぶということが僕たちとしての信頼、実績につながっていくので大事にはしています。
倉貫
コンシューマ向けのスペイン語教育もやるんだけど、企業さんにもスパニッシモのシステムを利用して頂くということですか?
有村
そうです。本当はその法人の比率をもっと増やしていきたいというのが正直なところです。というのは、僕たちがやりたいことは、安定的に先生たちに仕事が振れている状態、お金が払えている状態なんです。これを実現させるには、毎回お金が減る、減らないにビクビクしなくていい状態をつくること。そのためにはできる限り法人と、それこそ年契約ができれば一番いいと考えています。でも、企業がスペインに赴任させようと思っても、100人、200人単位では行かせないので、スパニッシモの契約人数も少ないですね。
アメリカのホテル業界、および建設現場における言語のギャップを解消したい
有村
だからこそ、大学のスペイン語の授業にもっとこのサービスを入れていきたい。もう少し大きな規模、単位で取っていきたいと思っているわけです。日本だとすごい大変で、大学は規模はあってもお金がない。法人さんはお金を持っているけど、そんなに何百人もがスペイン語を学習するニーズはないという状況です。
倉貫
難しいところですね。
有村
そうなんです。
倉貫
その両方を解決する、次のアイデアがあるんですね?
有村
そうです。まさにアメリカですね。中南米でスペイン語を母国語としている人たちで、アメリカに来てる人たちのことをヒスパニックというふうに呼んでいますけども、アメリカのホテル業界、および建設現場に、ヒスパニックの人たちの割合がものすごく多いんです。サービス業で従事している人たちがすごく多い。中には英語を話さない人たちもいるんです。
有村
今分かってきている状態は、アメリカの一企業の中でも、マネジメント層の人たちと、実際に手を動かして働いている人たちの間に、言語によるギャップがあったりとか、それによって会社としての一体感がなかなか生まれないということです。ですので、例えばホテルの業界でも、マネジメント層に対しての研修という意味でスペイン語を勉強したらどうですかという形でアプローチしています。建設現場も全く一緒ですね。
定例ミーティングで、「こんな問題が出た」と伝えても、毎回驚かずに対応してもらえるのがいい
倉貫
今後の展開として、どういうふうに日本市場を広げていくのか、海外展開はどうしていくのか、可能な範囲で戦略をお聞かせください。
有村
やっぱり日本の中でできることはまだまだあるので日本自身にも注力をするんですけど、あとは北米、この2つだけに今はフォーカスしている状態です。
倉貫
北米版はもうローンチを?
有村
はい。リリースしました。今はインターナショナル版として、英語でも「スパニッシモ」のサービスを全部提供できているので、その日本版と2つをやっています。
倉貫
英語版のマーケティングもこれからしていかないといけないですね。
有村
そうですね。本当にマーケティングは大事ですね。
倉貫
最後に聞きたいんですけど、「納品のない受託開発」は、ちょっとこれまでにないシステム開発の仕方ですが、とは言えプロボノさんとの開発とそれほど違いはないとは思うんですけど、一緒にやってみての率直な感想を一言お願いします。
有村
ベンチャーとして一番助かっていることは、ソニックガーデンさんが柔軟であることだと思っているんです。定例ミーティングの中で、「いきなりこんなことが出てきちゃいました」とか、「こんな問題になってきました」と伝えても、毎回驚かずに対応してもらえるのがいいですね
倉貫
「そんなこともあるよね」という感じですね(笑)
変化を受け止めてもらえる土壌があるのは、大きな安心感
有村
まさに昨日話したんですけど、DELEという国際資格があるんですね。TOEICみたいなスペイン語の能力検定なんですけど、それ自身が今度大きく変わるという話があり、「実は7月2日付でこういうふうになって大きく今後変わると思います」という話になったときでも、「ああ、そうなんですね」みたいな(笑)そうやって受け止めてもらえる土壌があるのは、大きな安心感がありますね。
有村
「前にこうやって契約しましたよね」「これをやったら違約金です」みたいな話になってしまうときついですよね。ソニックガーデンさんは「ここからAという製品をつくるのに何円」ではなく、「全体的なアドバイス、プラス、そのつくっていくこと全部をうちがやりますよ」ということで、そこにお金を払わせて頂いているので、中身のタスクが決まっても、変更になっても、そこに何か不具合があまり発生しないのはすごく助かっているポイントですね。
倉貫
そうですね。そう言っていただけると、有難いです。あとは、僕らは顧問としてやらせて頂くんですけど、さっき「離れているのでなかなかチームっぽくない」というお話があったんで、いつかはグアテマラに西見を行かせればいいかなと。双子が生まれたばかりですけど(笑)
有村
そうですよね。
倉貫
もうちょっと双子が大きくなったら行けるんじゃないかなと(笑)その辺りも含めてなんですけど、僕らとしてはやっぱり気持ち的にはワンチームで一緒にやりたいなと思っていますし。
有村
ありがとうございます。うちのスタッフ全員、グアテマラの先生たちも、西見さんという人が僕たちのシステムを作ってくれていることをちゃんと認識しているんですよ。
ワンチームの中でのシステム面のすべてを手伝ってくれる存在
有村
システムが変わったことに対して、良かったよと、先生たちもすごく素直に反応してくれて、その反応を毎回共有できるというのはすごく嬉しいなと思っています。別にCTOとかではなく、本当にチームの中でのシステム面のすべてを手伝ってくれる存在として、僕たちは一緒にやっている認識なので、それはリモートでも醸成できなくはないなと1年やって感じています。でもやっぱり、みんなと仕事が終わってご飯を食べに行ったり、プライベートな話を共有したりというところまではなかなか踏み込めない。そういうのもしたいですね。でも、チームとしてやれているとは感じています。
倉貫
ありがとうございました。僕も1度グアテマラに行きたくなりました。
有村
ぜひ(笑)それまでに頑張って、もう1回線ぐらい整えてできるようにします。
倉貫
これからも末永く、僕らもスパニッシモさんの発展にご協力できたらなというふうに思います。ぜひともよろしくお願いします。
有村
どうもありがとうございます。
倉貫
本日はありがとうございました。
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