サービスとシステムは共に成長していく。ソーシャルネットワークを住まいで作る「ソーシャルアパートメント」がスゴい
株式会社グローバルエージェンツが運営・管理している賃貸物件「ソーシャルアパートメント」。特徴は、ラウンジと呼ばれるハイクオリティな共用部を入居者が共同で利用できること。入居者同士で、リアルに繋がることができます。
ソニックガーデンが開発しているのは、顧客管理を軸としたシステムと入居者向けのマイページ(コミュニケーションツール)です。「開発を断った」ところからスタートした、これまでの出来事を振り返ります。
インタビュアーは、株式会社ソニックガーデン代表取締役社長・倉貫義人です。
ハイクオリティなラウンジをみんなで共有する。ソーシャルアパートメントのコンセプト
倉貫
まずは、自己紹介をお願いします。
山﨑
グローバルエージェンツ代表取締役社長の山﨑剛です。
田中
田中です、よろしくお願いいたします。
高梨
高梨です。僕と田中は運営部という部署にいます。運営部は、物件のオーナーさんと入居者をサポートする立場になります。現場スタッフのマネジメントと社内のオペレーションの仕組み化にも取り組んでいます。
藤原
ソニックガーデンの藤原です。ご相談期間のときに、私が最初に話をうかがいました。実際の開発は、山中さん・秋田さんに担当プログラマとしてお願いしています。
倉貫
ソーシャルアパートメントは、世の中にカテゴリとしてあるのでしょうか?
山﨑
なかったと思いますね。「ソーシャルアパートメント」は私たちが作った言葉です。ラウンジを通してシェアハウスにある共有性を楽しみつつ、ひとり暮らしのプライバシーも確保できる。ワンルームマンションとシェアハウスのいい部分を両立させたようなタイプの賃貸物件となります。
倉貫
分譲マンションにもラウンジはありますよね。どういった違いがありますか。
山﨑
ソーシャルアパートメントのラウンジは、24時間いつでも予約なしで使えるようになっています。分譲マンションの場合は、予約をして限られた人だけで利用することが多いのですが、考え方はまったく反対。入居者同士が、共同で利用するラウンジです。ここがソーシャルアパートメントが新しいと呼ばれている部分ですね。
田中
必ず、どの物件のラウンジも平均で100㎡前後あります。また、キッチンはとても重要なコミュニケーションツールなので、すべてのラウンジに付帯させるルールになっていますよ。
倉貫
一般のシェアハウスや単身向けの分譲マンションにはない広さです。ラウンジは、どのように使われるのでしょうか。
高梨
日中はフリーランスやオフィス外で仕事をする方の、良い仕事場になっていますね。夜の時間帯は、たとえばキッチンで料理をしたりお酒を飲んだり、テレビを見たり、ゲームをしたりなど。本当にそれぞれの使い方で過ごしてもらっています。
倉貫
自由に楽しんで過ごしている。ラウンジ以外にも楽器が弾ける防音室やビリヤード台がある物件もあるそうですね。
高梨
入居者は男女半々で、平均年齢は29歳ぐらいとなっています。ラウンジはコストもスペースもかかる分、相場の賃料よりは少し高めの設定にはなりますね。ただ、交流を付加価値として押し出していますので。ラウンジというハードがあって、その上に交流というソフトがある。
倉貫
付加価値を求める方が集まってくると。ターゲティングがうまくいっています。
山﨑
実は、新しい人脈って社会人になったらなかなか作れないものなんです。自分の歩んできた人生、そこで作られた人脈はある傾向が出てきます。ソーシャルアパートメントには、これまでの人生で関わることがなかった人たちが住んでいる。そのため、お問い合わせをされる方は、業界や世代・国籍関係なしに交流したいということを求めています。
田中
ソーシャルアパートメントを知るきっかけとして、友だちのタイムラインで見た、会話で知ったという方もいらっしゃいますね。物件を内覧されるお客さんの3割くらいでしょうか。
NEIGHBORS 二子玉川のラウンジ
高梨
ラウンジはデザインにもこだわり、写真映えのするフォトジェニックなところもあります。遊びにきたお友達がSNSに写真を投稿し、繋がりの中で知られているようです。ソーシャルメディアとの親和性が高いと思います。
倉貫
昔の町屋みたいなイメージがあって面白いですね。オンラインではなくリアルな繋がりが前提となると、入居審査は従来より時間をかけているのでしょうか?
山﨑
通常の与信審査と人柄は拝見していますね。面談のような固い事は行っていませんが、お問い合わせ後に営業担当者がお客様につきます。入居への申し込みプロセスの間で、いろいろなコミュニケーションの機会がありますから、その中で審査を兼ねていくという感じです。
「開発はやめておきましょう」から、お互いのビジネスを理解していくまで
倉貫
では、開発したシステムの話を教えてください。
藤原
グローバルエージェンツさんの最初のお問い合わせは、賃貸管理のシステムと入居者向けのオンラインサービスを作りたいという内容でした。
藤原
初めての相談のとき、実は「既存のウェブサービスがあると思うので、まずそれを探してみたらいかがですか」とお断りしています。
倉貫
「つくるまでもないよ」と。すでに類似のシステムがあるなら、新規でわざわざ開発してコストと時間をかけるのはお互いにとって良くないですからね。
藤原
賃貸の契約まわりやお金の管理。つまり業界の知識が深く必要になる基幹システムを作ることが、僕たちは得意ではないからという理由もあります。ゴールが見えないものを、お客さんと一緒に探して作っていくスタイルなので。
山﨑
案件の相談をして、まさか「開発をやめときましょう」と言われるとは(笑)
藤原
次の機会に、改めてソーシャルアパートメントの本質についてお話があったんですね。システムは顧客管理だけではなくて、入居者との交流も含めたい。SNSの要素が必要だし、長く住んでもらうためにエンゲージメントを高める工夫をしたいという内容もありました。また、営業担当者は物件を紹介するだけではなくて、入居にいたるまでのコーディネートも行う。世の中にまだない仕組みだなと、具体的なシステムのイメージが少しずつ見えてきたのです。
山﨑
ご相談したときも、顧客管理のシステムは入れていました。でも、社内でシステムがわかる人間がおらず、使い切れていなかった。もう少し規模の大きい会社で、専属の担当がいれば使いやすいシステムでしたが、私たち向きではなかったのです。
藤原
そこで、既存のシステムに連携して新規で開発するよりも、kintoneにリプレースするというご提案をしました。まず、コスト面が改善されます。さらに物件や入居者が増えてくると、業務も変わり求められるシステムも変わってくるはず。ならば、変えやすいシステムを目指しましょうとお話しました。
山﨑
私たちのビジネスはどんどん成長しているし、いろんなアイデアも出てくる。仕様を固めずに必要なものを開発していくほうが絶対にいいだろう、ということでまとまりましたね。
倉貫
ソニックガーデンの「納品のない受託開発」をご理解いただいて、ご判断されたと。
山﨑
私たちに合っていたと思いますね。従来の受託開発は、施工会社にお願いする不動産のリノベーションに近いです。
倉貫
どんなところが近いですか。
山﨑
リノベーションも、こちらで要件・仕様を確定して見積もりを依頼します。途中で仕様変更があったら「追加費用です」となりますね。だから、かかるコストをすべて最初に合意して進めます。リノベーションであれば、こちらも知見があるし人材もいますので理解できる。しかしシステムの分野については、要件定義もできないしお見積もりの中身も妥当性がわからないのです。
高梨
顧問・CTOのように開発に入り、一緒に作っていこうよというソニックガーデンの方法は、本当に私たち向けでした。私たちがやろうとしているビジネスを最大限、形にできるように設計を考えてくださった。
倉貫
今回はすでにあったシステムをkintoneにリプレースしました。不安にはなりませんでしたか?
田中
分かりやすくて、すごく面白かったですね。プログラマーにも個性があって、リリースされたシステムにも性格が出ていました。
藤原
リプレースには、システムが止まってしまうかもしれないというリスクがあります。開発側としては、kintoneにリプレースするべきかどうか、メリット・デメリット合わせた判断材料も用意していたんですね。でも、すぐに「やりましょう」と決断された。これがもし開発の方向性を示してもらえないとすると、とにかく無駄に提案をしていかなければなりません。それが一切なく、開発に集中できるということはありがたかったです。
山﨑
革新的だなと思ったのが、開発途中の段階でも操作性を見ながらシステムを確認できること。私たちのようなITに詳しくない会社にとっては嬉しかったです。
倉貫
仕様書上にはあるが、実際に目の前にないシステムをイメージするのは難しいですよね。操作をしていくうちに「やっぱりこうしたほうがいいよね」「ここを変えたい」など、思われましたか?
山﨑
結構ありました(笑)
藤原
ついつい楽しくやってしまうところですよね。変更依頼については、それに対応ができる開発方法ですのでウェルカムです。とくにグローバルエージェンツさんは、フィードバックが早い。想像で「こうしてほしい」ではなく、操作性を確かめた上で「ここが使いにくかった」と回答してくれる。僕たちとしても開発しやすく、確かな要望をもらっていたなと感じます。
山﨑
フィードバックや要望の変化は良い意味で議論がすごく深まりました。最終的には、通常の受託開発では考えられないような最適解ができあがってきますし。
ソーシャルアパートメントは私たちのオリジナルですので、似たようなツールがないんです。たとえば入居者が使うマイページについても、本当に何もないところから作ることで自由度が高く設計できました。ASPですと不要な機能もある一方で必要なものがない、もありますから。
ソーシャルアパートメントは私たちのオリジナルですので、似たようなツールがないんです。たとえば入居者が使うマイページについても、本当に何もないところから作ることで自由度が高く設計できました。ASPですと不要な機能もある一方で必要なものがない、もありますから。
長く関係を続けていけるから、サービスもシステムも共に成長する
倉貫
ビジネスの成長フェーズに応じて、求めるシステムも変わってくるとお話にありました。今後の方向性は何か決まっていますか?
田中
大きな機能追加についてはこれからですが、日頃から「こうやったほうが便利ですよ」と担当のプログラマーが相談にのってくれます。より良いご提案をしてくれるので、安心してお任せできますね。
藤原
こちらからご提案もできるというのは、長く時間をかけて関係を作り開発をしてきたメリットだなと思います。半年・1年とお付き合いが続くと、業務の内容がより深くわかってくる。その状態で開発をすると、費用対効果も高くなってきます。
倉貫
今後もコミュニケーションを取りながら、やりたいこと・できることをどんどん進めていく。お客様のビジネスが成長するのと同時に、ソニックガーデンとしてもシステムを成長させていけたら一番いいですね。
山﨑
ソーシャルアパートメントは、文化として根付かせていきたいというミッションで取り組んでいます。そのためには、まず物件数を増やすこと。そして、それぞれの物件で自然発生的にコミュニティが形成され、より多くの入居者の素晴らしい体験を増やしていくことが、非常に大事な部分です。
田中
私たちインフラを提供する側として、今回のオンラインシステム化はビジネスの成長に重要な役割を果たしていくと感じています。不動産業界で私たちぐらいだと思いますが、100%自社集客でやっています。通常であれば仲介会社に集客を依頼し、内覧に繋げてもらうという取引があります。
ソーシャルアパートメントの場合は、必ず自社サイトを通してお問い合わせをしていただく。お問い合わせの内容が顧客リストになり、入居者リストへとつながるのです。この1年で社内的なオペレーションの形が本当に変わりましたので、今後も大きく変化があるのだろうなと考えています。
ソーシャルアパートメントの場合は、必ず自社サイトを通してお問い合わせをしていただく。お問い合わせの内容が顧客リストになり、入居者リストへとつながるのです。この1年で社内的なオペレーションの形が本当に変わりましたので、今後も大きく変化があるのだろうなと考えています。
高梨
入居者との連絡も、電話・メール・物件の張り紙とバラバラで、非常にコミュニケーションコストがかかっていたのです。入居者向けのマイページがリリースされましたので、良くなりましたね。さらに、入居者サイドのベネフィットもより強くしていきたいです。マイページも活用しつつ、物件や共用部と入居者の生活が楽しくなることへの投資が次のフェーズだと思っています。早く進めたいですね。
山﨑
ソーシャルアパートメント事業を始めたきっかけは、私がロンドンで初めてのひとり暮らしをしたことから来ています。下宿のような形で、他人と住宅の中でコミュニケーションを取る面白さを体験しました。
その後の2004年、SNSが大きく成長していた時代に、不動産のデベロッパーでインターンをしていた中で「ソーシャルの場をオンラインではなくて、リアルの場でも作ったら面白いよね」という気持ちが生まれたんですよね。共用部をフックにいろんな人が入ってくると、コミュニティ自体がもっと面白くなる。住む場所がソーシャルのプラットフォームになるのです。
その後の2004年、SNSが大きく成長していた時代に、不動産のデベロッパーでインターンをしていた中で「ソーシャルの場をオンラインではなくて、リアルの場でも作ったら面白いよね」という気持ちが生まれたんですよね。共用部をフックにいろんな人が入ってくると、コミュニティ自体がもっと面白くなる。住む場所がソーシャルのプラットフォームになるのです。
倉貫
リアルに住んでる場所で生まれた交流を、ITの技術でサポートする。すると、より人は繋がりやすくなることがソーシャルアパートメントには現れていますね。本日はありがとうございました。
(構成・執筆/マチコマキ)