メインユーザーが50歳以上の「アエルズ」で分かった、高齢者向けウェブサービスの作りかた【後半】

外出支援を専門とするトラベルヘルパーと、外出の付き添いなど介護保険外のサービスを依頼したい人をつなぐマッチングウェブサービス「アエルズ」。開発や運営には、トラベルヘルパーと介護サービス利用者という2方向からのユーザー視点が求められます。
お客さま事例の後半では、開発にあたってのポイントやサービスを運営しながらシステムの改善を重ねていく大切さについてご紹介します。
アエルズが描く世界観をシステムで作る
ソニックガーデンでは、育児を助け合う「子育てシェア」(株式会社AsMama)やカウンセラーとユーザーをつなぐ「ボイスマルシェ」(株式会社バーニャカウダ)など、マッチングサービスの開発事例が多数あります。そのため、アエルズの開発はスムーズに進み、2016年4月に正式リリースされました。
アエルズでは、トラベルヘルパーへの依頼がすべてウェブ上で完結します。
まずユーザー登録を終えた依頼者(支援を必要とする方の身内など)が支援依頼を公開すると、トラベルヘルパーが支援を申し出ます。依頼者は複数の申し出の中からトラベルヘルパーを選び、より詳細な打ち合わせをマッチングサイト内のメッセージ機能を通して行い、依頼の契約を完了させます。そして利用料金の支払い後、予定日にトラベルヘルパーの訪問を待つというのがサービスの流れです。
さらに安心・安全にご利用いただくために、マッチングサイト上で契約された依頼は、アエルズが加入するトラベルヘルパーおよびそのサービスの利用者全員を対象とした保険が適用されます。またアエルズは個人間の契約のため、一般的な外出支援サービスよりも比較的安価な利用料金であることも特長です。
株式会社アエルズ 代表取締役・篠塚登紀雄さん
アエルズを運営する株式会社アエルズ代表の篠塚登紀雄さんが目指すサービスの形は、「トラベルヘルパーと利用者の間で自由にコミュニケーションを取り、お出かけや支援が生まれる」こと。システムも、その世界観が実現できるように構築されています。

「老眼だからスマホは困る」「スタイリッシュなデザインは苦手」意外なユーザーの本音にどうする?
マッチングサービスの開発を担当しているのは、ソニックガーデンのプログラマ・大野浩誠です。アエルズの開発ポイントについて、次のように語りました。
たとえば、トラベルヘルパーが依頼者向けのページからログインをしようとし、「ログインができません」という問い合わせが続いたことがありました。これには「トラベルヘルパーのログインはこちら」というリンクを掲載する対応を取っています。また、便利だと考え進めていたスマートフォンの対応も「老眼で見えづらい」というフィードバックがありました。

インターネットリテラシーは人それぞれですが、高齢者をメインターゲットとしたウェブサービスはまだ多くはありません。そこで気をつけているのが「ユーザーはどのような経緯で使いたいと思ったのか。実際に使っているときに考えていることは何か」という行動の背景まで考えて落とし込み、設計をすること。
アエルズのメインプログラマ・大野浩誠
文字で丁寧に説明されているほうが、親しみが沸く。そのことが分かってからは、温かみや色合いを意識しながらデザインを作っていきました。僕らの感覚や常識と違うものを取り入れていくことが必要だと、気づかされますね。
細かなフィードバックは、アエルズを使いたいという気持ちがあるからこそ。しかし、改善要求をすべて反映しているわけではありません。「トラベルヘルパーと利用者の間で自由にコミュニケーションを取り、お出かけや支援が生まれる」というアエルズの世界観からずれてしまうような変更は行わないという大前提があります。議事録には「アエルズの世界観」が記され、判断に迷った時は立ち戻るようにしています。

サービス認知の向上で、コミュニケーションコストが下がった
アエルズを正式リリースしてから約2年。トラベルヘルパーの活動記録をまとめた「トラベルヘルパーマガジン」によるサービス認知と、アエルズの利用状況はどのように変化したのでしょうか。

以前は、サービスのことを教えてほしいという漠然としたお問い合わせが多かったのですが、トラベルヘルパーマガジンを見てイメージされ、「こういった旅行へ行きたい」と具体的な要望を含めたご相談が増えました。コミュニケーションコストの削減につながりますから、とても良い傾向だと思います。
少しずつ成果が出ているというアエルズ。スマートフォンを使いアエルズで依頼を受け仕事をするという、60歳を超えたトラベルヘルパーもいるそうです。
「ゆっくり」であることがアエルズの価値。10年先を見通した開発を続けていく
ますます高齢化が進み介護サービスのニーズは高まる一方ですが、ビジネスとして利益を生みづらい事業でもあります。それでもシステム化できる作業をITの力で効率化し、支援の機会を生み出しているアエルズ。「開発は、3歩進んで2歩下がるということばかりです」と篠塚さんが語る通り、変化やスピードが求められるウェブサービスとは真逆の立ち位置です。
だからこそ、ソニックガーデンの藤原士朗は「アエルズはゆっくりと成長する事業。諦めずに長く続けること、これはソニックガーデンにしか支援できないと思います」と言い切ります。
アエルズから相談を受けたとき、藤原は「開発は10年単位で時間がかかる。その覚悟で取り組もう」と思ったそう。「じっくりと育てていけば、スマホに慣れた世代がメインユーザーとなり、アエルズのマッチングサービスは当たり前になっているはず。時代が追いつくときに、ベストなサービスとして完成させておきたいんです」と話しました。
これは開発そのものが難しいということではなく、前例の少ない高齢者向けのウェブサービスは、トライアンドエラーを重ねて根気強く改善をする必要があるということ。
ユーザーの反応を見て、”機能としてちょっと早かったですね”という振り返りをすることもあります。でもこのゆっくりさが、アエルズの価値なんです。事業を続けられる限り、伴走していきたいなと思っています。
ソニックガーデンのアエルズへの思いに、「システム開発会社としてだけでなく、一緒に事業を作り、育ててくれていると感じます。もっと頑張らなくちゃですね」と語った篠塚さん。
改めて篠塚さんが描く今後のアエルズについて聞くと、次のような思いが返ってきました。

トラベルヘルパーや外出支援について、介護施設から相談を受けることも増えているそう。今後は、関連企業や団体全体で介護現場へのトラベルヘルパーの啓蒙・導入をサポートしていきたいと考えています。
【前半】外出を通じて高齢者のQOLを向上したい。介護スキルシェア・トラベルヘルパーのマッチングサービス「アエルズ」|株式会社アエルズ
[取材・構成・執筆/マチコマキ]