上司はいません。親方がいます。
ソニックガーデンには、上司も、研修部門もありません。かわりに親方がいて、弟子がいます。入社してから一人前になるまでに何が起きるのか、私たちが使っている言葉とあわせて、あらかじめお伝えします。
なぜ、徒弟制度なのか
プログラマの腕は、本を読んだだけでは身につきません。わかることと、できることは違います。状況に応じた判断、設計の善し悪しを見分ける感覚、お客さまとの話から本質を見抜く力。どれも、研修で教えられるものではありません。
腕を磨くのに必要なことを突き詰めると、三つです。できる人のプロセスを間近で見ること。自分の手で実践すること。その実践を見てもらってフィードバックを受けること。
上司と部下の関係では、これが成り立ちません。上司の目的は部下に成果を出させることなので、プロセスに時間をかけることが、短期の生産性と衝突してしまうからです。
そこで私たちは、上司ではなく親方と呼ぶことにしました。宮大工の世界を書いた『棟梁』から借りた言葉です。親方は、自分も現役で仕事をしながら、弟子が育つ環境と機会を渡します。命じる人でも、教える人でもありません。隣で働き、見て、必要なときに手を入れる。
昔の徒弟制度にあった理不尽さ ── 長い下働き、理由を説明しない、私生活まで縛る ── は持ち込みません。受け継いだのは、伝え方の構造だけです。
そしてAIが進むほど、現場から易しい仕事は減っていきます。残るのは難易度の高い仕事ばかりですが、誰もが最初から高度な仕事をできるわけではありません。経験を積む機会がなければ、いつまでも初心者のままになる。その穴を埋めるのが徒弟制度だと考えています。
親方、弟子、訓練生
選考のときも、入社してからも出てくる言葉です。先にまとめておきます。
- 親方
- ベテランのプログラマ。自分も現役でお客さまの案件を持ちながら、若手を育てます。一人の親方のもとに、数人の弟子がいます。
- 弟子
- 親方のもとで腕を磨いている人。案件に入れるようになった人を、こう呼んでいます。弟子は段階ではなく親方との関係なので、腕が上がったら終わる、というものではありません。
- 訓練生
- 弟子になる前の期間。内定を承諾した時点から始まります。
- 兄弟子
- 訓練生の日々を見る先輩。親方ではなく、同じ親方のもとにいる先輩の弟子が務めます。年が近いので、聞きたいことをすぐ聞ける相手がいる状態になります。
- 弟子入り試験
- 弟子になるための試験。決められた時間のなかで課題のアプリケーションを作り、親方たちのコードレビューを受けます。
- 段位
- 腕前の段階。初段から始まります。段位が上がると、任される責任の範囲と報酬も、それに見合ったものになります。順位をつけるためのものではありません。
内定から、一人前まで
- 選考
- 人事との面談のあと、親方と役員と会います。土台の技術力も、この期間に身につけていただきます
- 内定
- 承諾した時点から訓練生です。入社日を待つ期間ではありません
- 訓練生
- 親方のもとに入り、土台の技術力をつけることに集中します。日々は兄弟子が見ます
- 弟子入り試験
- 合格すると、弟子になります
- 弟子
- お客さまの案件に入ります。最初は親方の隣で見るところから。このあいだも、まだ親方のそばで働きます
- その先
- 自分で仕事を進められるようになったら、リモートワークに移ります。担当を持ち、責任の範囲が広がっていきます
すでに十分な経験をお持ちの方は、訓練生も弟子入り試験も経ず、内定からそのまま弟子として入ります。段位も、初段からではなく上位からのスタートです。
選考のあいだ
選考は、こちらが見極めるだけの場ではありません。土台になる技術力は、選考のあいだに身につけていただきます。そのためのカリキュラムを用意しています。データベースを使うWebアプリケーションを自分の手で作れるようになるまで、順に取り組んでください。
一緒に過ごすその時間が、そのままお互いを知る時間になります。私たちはあなたの学び方を見ますし、あなたも私たちの教え方を見ることになります。
期間は決めていません。お互いに納得できた状態になってから、内定をお出しします。
すでに実務の経験がある方には、カリキュラムのかわりに、副業や業務委託として実際の仕事に近い形で関わっていただくことがあります。見るものは同じで、一緒に働けるかどうかです。
訓練生の期間
土台の技術力をつけることに集中します
この期間の目的は、ひとつだけです。良いコードを、早く書けるようになること。案件をこなせるようになることではありません。順番が逆になると育たない、というのが私たちの考えです。
取り組むのは、試験と同じ形式の課題だけではありません。開発で使う言語やフレームワーク、チームでの開発の進め方は、用意した教材で学びます。動作確認やテストなど、実際の仕事に触れていただくこともあります。
課題は少しずつ上げていきます。まず時間内に完成させられるようになる。次に品質を上げる。それができたら、より短い時間で仕上げる。一度目は、たいてい時間内に終わりません。どうすれば仕上がるかを自分で考えて、次に臨みます。
この期間は、成果を求めません
求めるのは、報告・連絡・相談と、自己管理です。仕事の成果は、そのあとについてきます。
ひとりで抱える状態にはしません
日々を見るのは兄弟子ですが、親方も状況を把握しています。あわせて、週に一度、30分ほどのふりかえりの時間があります。人事とのフォローアップ面談も、入社後ではなく内定後から始まります。
期間の目安
新卒の場合、長くても入社から1年程度を目安にしています。実際には、それより早く合格する人が多くなると見込んでいます。
弟子入り試験
弟子になるための試験です。決められた時間のなかで、課題のアプリケーションを作ります。できあがったものを、親方たちがコードレビューして判断します。動けばいい、というものではありません。私たちの考える「いいコード」になっているかを見ます。あとから直しやすいことは、その要素のひとつです。
受けるかどうかは、自分だけで決めるものではありません。日々あなたを見ている親方が、そろそろ受けてよいと判断したときに受けます。そこまで来ているかどうかは、ひとりで抱えなくて大丈夫です。
判定は、担当の親方ひとりでは行いません。ほかの親方が試験を担当し、担当の親方はその横で見ます。身内びいきにならないようにするためです。
受からなかったとしても、それで終わりではありません。試験の時期は、選考の過程でお伝えします。
弟子になってから
育てる手間のほうが上回っていて構いません
弟子になったら、仕事の成果を出すことを求めます。ただし、なったばかりのころは、育てるための手間がその成果を上回っていても構わないと考えています。焦らせるつもりはありません。
はじめのうちの、親方との関係
弟子になったばかりのころは、仕事はひとつずつ渡されます。「今週の分をまとめて」という渡し方はしません。進捗を管理するのは、あなたではなく親方の仕事です。
判断も、親方がします。考えることは求められますが、その考えに対して親方がジャッジをします。「どちらでもいい」は存在せず、親方の正解があります。それをトレースできるようになることを目指します。
そのぶん、親方には厳密さと一貫性が求められます。少しの違和感もフィードバックすること。判断がぶれないこと。判断に一貫性があるから、弟子は顔色をうかがわずに済みます。
この形は、はじめのうちだけです。腕が上がるにつれて、渡される仕事の単位は大きくなり、判断も任されるようになります。やがて、自分のやり方ができていきます。
そして、リモートワークへ
自分で仕事を進められるようになったら、リモートワークに移ります。期間ではなく、状態で決めています。見極めるのは、日々そばで働いている親方です。