業務改善からシステム開発まで一気通貫にやってしまう「業務ハック」というコンセプト。その業務ハックでお客様が抱える課題を顧問として解決しサポートしていくのがソニックガーデンの「業務ハッカー」たちです。今回、個性豊かな5名の業務ハッカーに、それぞれどんな想いを持ち、どんな仕事に取り組んでいるか聞いてきました。
最終回に登場するのは上田幸哉(うえだゆきや)さん。現在53歳の上田さんはソニックガーデン最年長のメンバーであり、文化の醸成役でもあります。他社でプログラマとしてのキャリアを積み管理職をしていた上田さんですが、「組織マネジメントよりも現場が好き」という気持ちから、ソニックガーデンへ48歳にして転職。5年目の今は、プログラミングからは少し離れ、業務ハックのフロントを担当しています。
名だたるプログラマの精鋭たちの中で、長いキャリアを誇る上田さんは一体何を大事にして、どのような仕事をしているのでしょうか?公私ともに親しい、ソニックガーデン副社長の藤原さんが聞いていきます。
<前編はこちら>
<第一回目のインタビュー記事>
ソニックガーデン初の女性プログラマは、業務改善の現場改革に挑む挑戦者だった!
<第二回目のインタビュー記事>
入社門前払いの危機から、業務ハッカーのエースにまでなった猛者プログラマの軌跡
<第三回目のインタビュー記事>
「楽しい仕事。好きな仲間。望む環境。全て揃わなければ、働けない」イマドキ女子が辿り着いた、業務ハッカーという仕事の面白さとは?
<第四回目のインタビュー記事>
40代で北海道へ移住!オーストラリア一周、シベリア鉄道でロシア横断!世界を旅する自由すぎるベテラン業務ハッカーの仕事の真髄とは?
たくさんのお客様から「ありがとう」と言ってもらえる醍醐味
藤原
上田さんは以前「納品のない受託開発」で顧問CTOをされていましたが、今は業務ハッカーのフロントです。やりがいなどの違いはありますか?
上田
それぞれやりがいや楽しいことは異なりますね。今はたくさんのお客様とお会いできるのが楽しいです。顧問CTOの時は、1社の顧問になったら、そこからの開発期間が長いので、新しいお客様と接する機会がありませんでしたね。
藤原
そうですね。「納品のない受託開発」では一回お付き合いが始まると、年単位になったりしますよね。
上田
長い分、深いですよね。プログラマとしてそのサービスをいかに良くするか、性能をどう良くするか、どうやってメンテナンスしやすくするか、そういうエンジニアリングに集中できる醍醐味がありました。
藤原
今はどうですか?
上田
フロント業務では、幅広くお客様と関わることになるので、多様な技術要素が必要です。醍醐味という意味では、たくさんのお客様から「良くなりました、ありがとう」と言ってもらえるので、すごくやりがいは感じますね。
プログラミングしたくて入社したけれど、プログラミングしない今の役割は自分にフィットしている
藤原
プログラムをたくさん書かなくなったことに対してはどう感じていますか?
上田
入社した時点で、こういう仕事をすることになるとは全然想像していなかったですが、悪くないですよ。プログラムが書きたくて入社しましたが、その理由はお客様との接点が欲しかったからです。そういう意味では、今の役割は自分にフィットしていると感じています。
藤原
経営側としても、上田さんに向いていると判断して、お願いしたんです。思い起こせば、上田さんが入社してかなり早い段階でお願いした、あるお客様へのヒアリングの際に、上田さんの得意なことを知ったんですよ。
上田
どんなエピソードでしょう、それは?
藤原
その案件は、消費者からネットを通じて野菜の注文が入ったら、その注文に応じて農家さんが畑から作物を収穫して、採れたての野菜を箱詰めして送る、というサービスでした。
そのオペレーションのためのシステムを開発することになったのですが、実際にシステムを使うのは農家のおじさん達です。
上田
そうでしたね。どんな注文が入ったか、農家さんにお知らせしなければいけなかった。
藤原
僕たちは「ITに不慣れな農家の方にも使いやすいよう、シンプルな仕様にはしなければいけないね」と言いながらも、システム屋なので「どういう画面を作ろうか」と考え出しました。
でも、上田さんは違いました。立ち上がって、ホワイトボードに書き始めたんですよね、「農家の方は何時に起きますか?」「農家の方にはどうやって連絡しますか?」と。現場の流れのヒアリングを始めたんです。
上田
そうでしたね。そうしたら、「農家の方がスマホをチェックして受注を知るなんて、現実的ではない」と。「なんとか頑張ってもらってメールでの通知。でもFAXか電話が現実的」という回答でしたよね。
藤原
そういう現実的な一連の流れをきちんと知ってからシステムを考えたので無駄に作りすぎなかったんです 。
当時まだみんな20代のエンジニアだったので、上田さんがいなかったら、「スマホに通知が来て、ページにアクセスして」というようなシステムを作っていたと思います。
現場を知り、現場の人と心を通わせるベストな方法が、現場に行くこと
藤原
その時の記憶が印象的で、上田さんはリアルな現場をヒアリングして、それに即した流れやシステムを想像するのが得意なんだなと思っていましたね。
あとは、上田さんと一緒にケアコラボという介護システムの仕事をやっていますが、上田さんはもう本当に現場に入り浸りますよね(笑)
上田
現場、大好きなんですよね。
藤原
すごくよく覚えているんですが、2015年にケアコラボメンバーで、千葉にある社会福祉法人に見学に行った時のことです。まだ斜に構えまくっていた30代中盤の僕は尖りまくってますから、「現場の人にヒアリングなんてすることなく観察ですべて見抜いてやるぜ!」と(笑)
上田
尖っていたから、聞けなかったの?(笑)
藤原
実際は、プログラマってシャイなので、見て勉強しようとするんです(笑)でも上田さんは「こんちにはー。どうですか今?大変そうですね。それ何やってるんですか?」と、どんどん現場の中に入っていきましたよね。
上田
現場も、人と話すのも好きなので、そこに抵抗はないですからね。
藤原
上田さんのように現場の人と接していくと、「実はこれはこういう意味があって今書いているんですよ。こういうところは、やりにくいですね」という本音を教えてもらえます。
現場を見て業務を理解するという際に、「相手の懐にすーっと入っていける」という上田さんのスキルが活きるんだなと知りました。
上田
ありがとうございます。現場に行くのは本当に楽しいんですよね。どんな風にみんな仕事をしてるんだろうとワクワクします。行くたびに発見もあるし。
藤原
上田さんにとってのキーワードは現場ですね。業務ハックをするうえで、現場を軽視してはいけないし、現場を見るとか現場の人と心を通わせるというところからスタートしなければいけない。そこが、醍醐味であり難しさでもありそうですね。
上田
僕にとってそのためのベストな方法が、実際に現場に行くことなんです。業務ハッカーのみんなは、僕ほどの頻度ではお客様のところに行っていないとは思います(笑)
業務ハックは、現場とビジョンをシステムで繋ぐこと
藤原
では次の質問ですが、どんな人が業務ハッカーになってほしいですか?
上田
大きく、2種類の人材を求めています。業務ハッカーと、業務システム屋さんです。例えば、部屋の片付けが好きな人などは、業務ハッカーに向いているかもしれません。片付けの際に、使う場所や頻度などを考えながら試行錯誤するプロセスが、業務ハックと似ている部分がありますね。
藤原
確かにそうですね。
上田
片付けをしようと思ったら、不要なものは捨てたり、必要なものを買ってきたり、置き場所を変えてみたりしますよね。もちろん、一度では決まらないので、試行を重ねながら整理していきます。
藤原
業務ハッカーという職種と共通するところがありますね。
上田
あとは業務システムの構築、既存システムのリプレースという面で活躍してくれる、業務システム屋さんにも仲間になってほしいですね。
この領域は、SE力といいますか、要件・仕様のとりまとめ、業務知識、想像力などが必要になってくると思います。現状を理解した上での、改善ポイントの提案も大事です。そのまま置き換えるだけでは、我々の意味がないですし。
藤原
同じ業務ハッカーという仕事でも、少し異なる特性を持った人材がそれぞれに活躍できる場なんですね。
上田
もちろん両方を兼ね備えた方も大歓迎です!
いずれも、人と話すのが好きな人、あとは仕組みを考えるのが好きな人、というのが根底にあるかと思います。仕組みという中には、物事の論理的な流れだったり、プログラミングだったり、ネットワークやインフラ的な知識も含めてです。あとは好奇心旺盛な人ですね。
藤原
上田さんのことですね、それは(笑)
上田
自分がそうだから、同じ人が楽しめるだろうと思うんですかね(笑)
あとひとつ付け加えると、「手段を厭わない人」ですね。業務ハックの場合はシステムを作らずに解決できる課題もあるので、「プログラムを書きたい」という想いが強すぎない方がいいですね。
藤原
確かに業務ハックだと、「ここはスプレッドシートでやった方がいいですよ」 という提案であったり、手段を厭わず課題を解決していくことが使命ですよね。
上田
話をしているうちに、捻じれて絡まった業務が解けてまっすぐになって、「もうこれで解決ですね」となるときもあります。必ずしも作るだけが解決ではないので、それを楽しめるといいかなと思いますね。
藤原
今回の業務ハッカーへのインタビュー企画、最後が上田さんですが、では上田さんにとって業務ハックとは何ですか?
上田
「現場とビジョンをシステムで繋ぐ」ことかな。とにかく現場に寄り添っていくことが大事なんだけど、とは言え会社の掲げるビジョンと現場が大きくズレてしまうことのないように、改善を進めていかなければなりません。
自分のような仕事をする人を増やし、ネットワークを築きたい
藤原
では最後に、今後上田さんがチャレンジしていきたいことを教えてください。
上田
僕のような仕事をしている人同士のネットワークを築いて、お互いに協力し合えるような仕組みを作りたいですね。
僕は神奈川が拠点なので、関東以外の現場に頻繁に行くのは現実的に難しいです。なので、僕のように実際に現場を訪れ、業務ハックを推し進めていける人を日本全国に増やしたいですし、既に同じような仕事をしている人と繋がりたいですね。
藤原
確かに47都道府県に上田さんのような人がいたらいいですよね。
上田さんがしているようなことは、20代30代ではまだ難しいと思うんです。システム屋としてキャリアを積んできたら管理職になるのが普通かもしれませんが、もっと現場に出たいと願うベテランの方は、その幅広い業務知識や、現場に入り込むスキルなどを活かせる場所ですよね。
上田
そういう人たちが、中小企業で本当に困っている人と繋がれたら、お互いに幸せです。それぞれが地元で中小企業を支援していくことになりますが、ただそこはノウハウが必要です。
そのノウハウの部分は、ソニックガーデンが蓄積したものをオンラインで共有しながら、一人一人孤軍奮闘するのではなく、みんなで繋がって協力し合いながらやっていきたいですね。
藤原
そういう方、既にいらっしゃるのでしょうか?
上田
業務ハッカーという定義はされていなくとも、地元でシステム屋をしていたり、フリーで仕事をしている方の中にいるはずです。ネットワークさえできれば、ノウハウを共有もできるし、システム構築の部分ではソニックガーデンが手伝えることもあるかもしれません。
藤原
何か計画をお持ちですか?
上田
まだ漠然とはしていますが、全国で開催している「業務ハック勉強会」を、そういう方たちが集まれる場所にもできたらいいかなと考えています。「心の扉を開く会」みたいな名前で(笑)
藤原
今日のキーワードは「心の扉を開く」でしたね(笑)上田さんらしいお話、ありがとうございました!
<前編はこちら>
実は2014年に上田さんが入社された際にも、インタビューをさせて頂きました。その時も上田さんはすごく楽しそうで、生き生きとされていて、夢も語ってくださいました。
あれから5年。2019年の上田さんは、さらに楽しそうに生き生きとしていました。自分の好きなことと得意なことが一致し、それを活かしてお客様を笑顔にしている上田さんは、明るく、包容力と気遣いの塊のような人で、ご相談にいらしたお客様も上田さんとお話しすると、ホッとするのではないでしょうか。
ソニックガーデン最年長であり、現在53歳の上田さんが、現場に寄り添い、楽しく働き、人生を充実させている様を見せて頂けるのは、人生100年時代と言われるようになった今、希望でしかありません。またお話を伺えるのを心から楽しみにしています。
- ライティング:岡田由美子
- 早稲田大学第一文学部在学中より、物書きを目指してひたすらに原稿用紙に文字を埋める日々を過ごす。卒業後、EC系のベンチャーで新規事業の開発に取り組む。現在は二児の育児の傍ら、インタビュー記事や、商品紹介のキャッチなど、また文字の世界へと戻る。